ゲームを成り立たせるには何が必要か? ジェンガのデザイナーがジェンガを持って東北・石巻を訪ねる

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次は雄勝デイサービスセンターへ!

雄勝小学校に別れを告げた後、私は雄勝デイサービスセンターに向かいました。目的地までは車で40分ほど海岸沿いを走りましたが、このとき私が目にしたものは、まさに3年前の大津波がもたらした自然の脅威そのものでした。ひん曲がったガードレールや、破壊されたコンクリートの巨大な塊が散在していたのです。

途中、私たちはプレハブで建てられたレストランに入りました。そこは何もない青空駐車場の片隅に建てられているように見えました。室内に入ると、壁にはたくさんの写真が飾られています。

私は穴子丼をとてもおいしくいただきましたが、食事をしながら壁に飾られたたくさんの写真を見ているうちに、ふと、あることに気づきました。これは、このレストランが建っている場所の津波の前後の光景を写した写真なのではないでしょうか。

このプレハブの建物が建っている、だだっ広い青空駐車場のような場所には、かつて多くの家族が住んでいて、たくさんのお店が営業していたのでしょう。とても悲しく厳しい現実を感じました。

雄勝デイサービスセンターでは、生活相談員兼介護士の菅原真理子さんが私たちを迎えてくださいました。同センター内のロビーにある大きな2つのテーブルに男女9人の高齢者の方々が座っていました。

9人全員がこれまでジェンガという玩具について、聞いたこともなかったようですが、2~3人に1つずつ、全部で4つのジェンガを渡して遊んでもらいました。これまで聞いたこともない玩具をいきなり渡して「遊んでください」と言ってしまったことを少し後悔しましたが、その心配もすぐに吹き飛びました。

雄勝デイサービスセンターにて

すべての方々が張り切ってジェンガに挑戦してくださったのです。ジェンガの遊び方を詳しく説明する必要もありませんでした。

私は高齢者の方々がジェンガを楽しく遊ぶ光景を目にしながら、ただただうれしい気持ちでいっぱいでした。「ロビーではいったい何が起きているのだろう」と思われたのでしょう。同センターのほかの職員の方々も続々と集まってこられて、室内は明るい笑い声であふれました。

こうして、復興に向けて進む雄勝町のすばらしい子どもたちや高齢者の方々に出会えたことを私はたいへん光栄に思い、感謝の気持ちを抱いて雄勝町を後にしました。

オックスフォードの自宅に戻った今、私はすばらしかった日本への初旅行に思いを馳せ、深い感慨に包まれています。何年も前に暮らしていたアフリカで、遊び道具にも事欠いていた頃、家族を楽しませるために考案したこのシンプルな木製ゲームが、その後、人種や文化の垣根を越えて世界中の家族や仲間たちにこれほどまでに愛され、親しまれるようになろうとは、自分でもこの幸運が信じられないほどです。

【レスリー・スコットの紆余曲折が描かれた書籍はこちら→『JENGA――世界で2番目に売れているゲームの果てなき挑戦』

レスリー・スコット
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