新型コロナのもう1つの特徴は、感染してから発症するまでの潜伏期間に1~14日間と幅があることである。潜伏期間中の感染者はウイルス排出量が低くPCR検査でも感染を検出しにくい。したがって、国境を越えた人の移動については、陰性証明に加え、14日間の隔離が求められるようになった。しかしこれでは短期の出張や旅行はできない。人々は国境の中に閉じ込められた。
夏には希望もあった。経済社会活動の再開、なかでも、サプライチェーンの立て直しやグローバル企業の機微技術管理、バカンスによる観光業復活のため、各国は国境管理を少しずつ緩めた。日本はベトナムなど感染が落ち着いていた東アジア諸国と人の往来を再開した。技能実習生の来日を待ち望んでいた工場や農家には笑顔が戻った。
一方で、多くの新興国もロックダウンを試みたが、経済へのダメージに耐えられなかった。ウイルスへのガードを下ろし、国境を開いて共存する道を選びつつあった。
変異ウイルスが閉める国境
開き始めていた国境は、しかし、再び閉じた。12月19日、イギリスのジョンソン首相が、従来と比べ最大で1.7倍ほど感染力が強まった変異株が拡大していると発表したからである。
パンデミックの最中に、コロナは何度も変異を繰り返してきている。2020年2月頃から欧州でひろがった欧州株は、2019年末に中国が報告した武漢株よりも感染性が増加していたというScience誌の報告もあった。
ウイルスはさらなる変異を遂げ、脅威を増した。イギリスは10月末に二度目のロックダウンを決断し、クリスマスを祝う準備を進めていた。感染のペースが若干収まった12月2日の感染者は約1.3万人だったが、それから1カ月後には5倍超、毎日6.5万人ほど感染者が確認されている。
1月5日、イギリスは3度目のロックダウンを余儀なくされた。12月29日に欧州で発表された解析によれば、感染性の高い変異株は9月後半には発生していたと見られている。
イギリスで発見された変異株に対し、かつては「移動の自由」の制限に及び腰だった欧州各国は、すぐさま入国制限で応じた。イギリスがEUを完全離脱する前にドーバー海峡を渡ってイギリスからフランスへ向かっていた人々は、予期せぬ形で足止めを食うことになった。イギリスからの入国制限は、欧州から中東、中南米へと世界各国に広がった。
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