しかし、帰国者・入国者の待機のモニタリングは、容易ではない。人権とプライバシーに配慮する日本政府は、入国者の位置情報(GPS)を取得してこなかった。
この点で参考になるのは、台湾である。台湾の待機モニタリングは徹底している。ある入国者はホテルでの隔離を義務付けられていたが、部屋から廊下に8秒間だけ出たために約36万円もの罰金を科された。
台湾政府は携帯電話事業者とともに、入国者の携帯電話の電波状況をモニタリングしてきた。在宅待機の隔離者が自宅を離れ、もっとも近い電波塔の圏外に移動すると、政府当局と警察に通知が飛ぶ。隔離違反者には最高370万円の罰金を科し、施設への拘禁も可能である。
台湾から学ぶ
台湾政府は、中国での新型肺炎発生の第1報を受けた直後から、専門家とともに感染リスクに応じた措置を立て続けに実施してきた。行動監視のように一部の人々の「移動の自由」を制限する厳しい措置もあったが、迅速果断に執行してきた。結果的に、台湾は全土一律のロックダウンなど強権的な移動制限を実施していない。
感染症危機対応に成果をあげてきた台湾政府を、市民も支持している。国際的な世論調査グループYouGovの統計によれば、2020年5月に日本で政府のコロナ対策を支持していた市民は42%にとどまったが、台湾では90%の市民が支持していた。その後、台湾では2020年12月に至るまで一貫して80%以上の市民が政府のコロナ対策を支持している。
危機は国民を動かす。コロナの初期対応において、多くの国で社会的な連帯が盛り上がり、コロナに対峙していた。しかし先の見えない危機において、そうした連帯感だけに頼って戦い抜くことは不可能である。国民の中には、コロナ疲れや失望が広がっている。
こうしたなか、「移動の自由」を制限するという「伝家の宝刀」を抜き、斬るべきものを見定め、むやみに振り回さず鞘に納めるのは、国家の指導者にしかできない業である。昨年10月、コロナ民間臨調は、罰則と補償措置(協力金)を伴う感染症危機対応法制の見直しを提言していた。「移動の自由」を取り戻すため、政府には的確なリスク評価と、迅速果断な政策の執行が求められている。
(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)
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