コロナ後「移動の自由」取り戻す為に必要なこと 必要なのは的確なリスク評価と迅速果断な政策

✎ 1〜 ✎ 36 ✎ 37 ✎ 38 ✎ 最新
著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

しかし、帰国者・入国者の待機のモニタリングは、容易ではない。人権とプライバシーに配慮する日本政府は、入国者の位置情報(GPS)を取得してこなかった。

この点で参考になるのは、台湾である。台湾の待機モニタリングは徹底している。ある入国者はホテルでの隔離を義務付けられていたが、部屋から廊下に8秒間だけ出たために約36万円もの罰金を科された。

台湾政府は携帯電話事業者とともに、入国者の携帯電話の電波状況をモニタリングしてきた。在宅待機の隔離者が自宅を離れ、もっとも近い電波塔の圏外に移動すると、政府当局と警察に通知が飛ぶ。隔離違反者には最高370万円の罰金を科し、施設への拘禁も可能である。

台湾から学ぶ

台湾政府は、中国での新型肺炎発生の第1報を受けた直後から、専門家とともに感染リスクに応じた措置を立て続けに実施してきた。行動監視のように一部の人々の「移動の自由」を制限する厳しい措置もあったが、迅速果断に執行してきた。結果的に、台湾は全土一律のロックダウンなど強権的な移動制限を実施していない。

感染症危機対応に成果をあげてきた台湾政府を、市民も支持している。国際的な世論調査グループYouGovの統計によれば、2020年5月に日本で政府のコロナ対策を支持していた市民は42%にとどまったが、台湾では90%の市民が支持していた。その後、台湾では2020年12月に至るまで一貫して80%以上の市民が政府のコロナ対策を支持している。

危機は国民を動かす。コロナの初期対応において、多くの国で社会的な連帯が盛り上がり、コロナに対峙していた。しかし先の見えない危機において、そうした連帯感だけに頼って戦い抜くことは不可能である。国民の中には、コロナ疲れや失望が広がっている。

こうしたなか、「移動の自由」を制限するという「伝家の宝刀」を抜き、斬るべきものを見定め、むやみに振り回さず鞘に納めるのは、国家の指導者にしかできない業である。昨年10月、コロナ民間臨調は、罰則と補償措置(協力金)を伴う感染症危機対応法制の見直しを提言していた。「移動の自由」を取り戻すため、政府には的確なリスク評価と、迅速果断な政策の執行が求められている。

(相良 祥之/アジア・パシフィック・イニシアティブ主任研究員)

地経学ブリーフィング

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

『地経学ブリーフィング』は、国際文化会館(IHJ)とアジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が統合して設立された「地経学研究所(IOG)」に所属する研究者を中心に、IOGで進める研究の成果を踏まえ、国家の地政学的目的を実現するための経済的側面に焦点を当てつつ、グローバルな動向や地経学的リスク、その背景にある技術や産業構造などを分析し、日本の国益と戦略に資する議論や見解を配信していきます。

2023年9月18日をもって、東洋経済オンラインにおける地経学ブリーフィングの連載は終了しました。これ以降の連載につきましては、10月3日以降、地経学研究所Webサイトに掲載されますので、そちらをご参照ください。
この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事