民主主義の危機に社会保障が重要視される理由 中間層崩壊を防ぐ「防貧」こそ福祉国家の使命

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「資本主義経済のもとでは、長期的に「r>g」が成立している。」(トマ・ピケティ『21世紀の資本』)

長期的に資本収益率は成長率を上回る。すなわち付加価値は資本の側により分配されていくということであり、より富めるものにより多くの付加価値が分配されていきます。つまり、付加価値の分配を市場機能のみに委ねれば、ゆっくりと、しかし確実に格差は拡大していく、ということです。

21世紀の世界経済が直面している大きな課題は「格差」です。

格差の拡大は社会を分裂させ、民主社会の基盤を掘り崩し、消費=需要の鈍化、そして投資の縮小を招き、成長の足かせとなります。このことは2014年12月のOECDのレポート(“Trends in Income Inequality and Its Impact on Economic Growth”『格差と成長』)の中でも明確に指摘されています。

同じ著書の中で、ピケティはこのようにも言っています。

「現代の所得再分配は、金持ちから貧乏人への所得移転を行うのではない(中略)むしろ、おおむね万人にとって平等な公共サービスや代替所得、特に保健医療や教育、年金などの分野の支出を賄う、ということなのだ。」

救貧でなく防貧こそ使命

社会保障は、単なる高額所得者から低所得者への所得移転(救貧)ではなく、安定的な中間層を維持・形成するために、彼らを襲う「個人の力ではヘッジしきれない生活上のリスク」から彼らを守ること(=防貧)にあります。

このことを通じて、社会保障は社会を支える安定的中間層を守り、社会の安定と持続的成長、そして「民主主義=市民的自由」を支えています。社会保障が果たしている「政治的意義」は、まさにここにあるのです。

21世紀の世界経済が直面している大きな課題は、「格差」です。社会保障を生涯の職としてきた者として、大げさなようですが、私は「自由と民主主義」に基本的価値を置く西側社会の一員であるこの国を守り、再び愚かな争いに世界を巻き込まないためにも、社会を分裂させ、民主社会の基盤を掘り崩す「格差の拡大」に逃げずに正面から立ち向かわなければならないと思っています。

香取 照幸 上智大学教授、未来研究所臥龍代表理事

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かとり てるゆき / Teruyuki Katori

1980年旧厚生省入省。在フランスOECD事務局、内閣参事官(総理大臣官邸)、政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。その間、介護保険法、子ども・子育て支援法、国民年金法、男女雇用機会均等法、GPIF改革等数々の制度創設・改革を担当。また、内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。2016年厚生労働省を退官。2017年在アゼルバイジャン共和国日本国特命全権大使。2020年4月より現職、同年8月より一般社団法人未来研究所臥龍代表理事。主な著書に『教養としての社会保障』(東洋経済新報社)がある。

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