民主主義の危機に社会保障が重要視される理由 中間層崩壊を防ぐ「防貧」こそ福祉国家の使命
社会の不安定化、経済の混乱、社会の分断、人々の心を襲う不安、無関心、絶望、諦観、「合理的無知」や「フェイクニュース」を喜んで称揚するような「反知性主義」の広がり、保護主義の台頭、移民排斥、極端なナショナリズム、レイシズム、ヘイトスピーチ、極右/ポピュリズム政党の台頭……。
暗黒は市民の内なるダークサイドから生まれる
いま世界中で、市民自身が自らの内にある「ダークサイド」に取り込まれ、自ら進んで「権威への服従」「集団への埋没」の道を選んでいるように思えます。古代ギリシャの哲学者プラトンは、「独裁(寡頭独裁)は民主制の中から生まれる」と言いました。
「人々は慎みを愚かさ、節制を賎しさと呼び、無恥を勇敢と呼ぶようになる。……快楽は無限に続き、広がっていく──民衆は利己的なことを主張し、どんどん堕落していく。……そしていつしか、民衆は民主制に嫌気がさし、強力なリーダーシップを持つ政治家を支持するようになり、反対意見をその政治家と一緒になって潰していく。そして、その強力なリーダーはやがて、僭主に変わる」(プラトン『国家』より抜粋)
かの大ヒット映画「STAR WARS」シリーズでも、シスの暗黒帝国は共和国の内側から、共和国の衰退・崩壊から生まれます。ダークサイドは共和国の中で広がっていくのです。
「人権」も「市民的自由」も、「平等」も「参加」も「法の支配」も、当事者=主権者である市民自らがそれを守り、実践していかなければ、いともたやすく失われていきます。これは多くの歴史が示す厳然たる事実です。
考えてみれば民主主義というのはとても脆弱なものです。独裁国家のように権力者が自由に振る舞うこともできず、意思決定にも時間がかかります。
だからこそ、危機に陥った国にファシズムが根を張るのです。シスの暗黒帝国が共和国連邦の危機に乗じて共和国の中から生まれたように、ファシズムは、民主国家の胎内から生まれ、内側から食い破って権力を握ります。歴史が証明している通りです。
現代の福祉国家における社会保障の機能とは、かつての救貧院や施療院のような「救貧」を目的としているものではありません。その機能の中心は、社会の中間層の崩壊・貧困化を未然に防ぐ「防貧機能」にあります。
この「分厚い中間層」こそ、安定的な消費=需要を生み出すコア層であり、同時に社会(=民主社会)の中核を担い、政治の安定を支える層でもあります。民主主義と社会保障の親和性は、まさにここにあるのだと私は考えています。
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