GAFAが突然やたら訴えられるようになった事情 規制に火をつけた元インサイダーの正体
提訴の論拠がスリニバサン論文と重なるのも当然だ。というのは、スリニバサンは9月に、グーグルを調査していたテキサス州司法長官事務所の技術コンサルタントとなっていたのだから。経済学と広告市場に精通した彼女は幅広い役割を与えられ、訴状の原案づくりにも深く貢献した――。事情をよく知る人物は、この件で公に発言する権限がないことを理由に匿名で明かした。
裁判所がスリニバサンの法的主張をどう受け止めるかは、まだわからない。フェイスブックは、プライバシーや有害コンテンツの扱いに対する懸念の重要性は認めつつも、これらは反トラスト法に関わる問題ではないと反論した。一方のグーグルは、テキサス州が主導する訴訟は「事実無根だ」とコメントしている。
転機はフェイスブックのユーザー監視
巨大テック企業に照準を合わせた規制当局は、スリニバサンのようなインサイダーを頼りにするようになっている。ここには現職の業界関係者も含まれる。20世紀型の競争法を21世紀のテクノロジーと市場に適用するには、ディープな専門知識が欠かせないからだ。
一方のスリニバサンは、反トラスト法の研究者としての第2のキャリアによって、イェール大学で取得した法学の学位をついに役立てることができた。イェール大学で学んでいたころ、彼女は競争法に強い関心を抱いていた。
2006年に同大学で最後に執筆した研究論文では、全米不動産協会(NAR)の規則は会員による違法な共謀に相当する、と論じた(この問題は2005年に司法省がNARを反トラスト法違反で提訴したことから当時ニュースで話題になっていた。両者の間では2008年に和解が成立している)。
ロースクールを卒業したスリニバサンは法律関係の道には進まず、地元の企業が効率的にインターネット上の広告枠を購入できるようにする会社を立ち上げた。後にこの技術はWPPの一部門に売却。2012年に当時WPPの子会社だったカンター・メディアの幹部となった。
「悟り」が訪れたのは2014年6月、フェイスブックが広告のターゲティングを強化するためインターネットの全域で(つまり、フェイスブックのネットワークの外も含めて)ユーザーの行動追跡を開始すると発表したときだったという。同僚は、広告主に飛躍的な進歩をもたらす重要なニュースだと喜んでいたが、スリニバサンは自由市場が失敗しているとの感覚を振り払うことができなかった。