ロボットスーツで「寝たきりゼロ」を目指す 山海嘉之・サイバーダイン社長に聞く

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今年3月、マザーズに上場したCYBERDYNE(サイバーダイン)は、株式市場の中で注目を集める存在だ。同社は筑波大学発のベンチャーで、ロボットスーツ「HAL(ハル)」を製造・販売している。HALは同大学大学院教授も務める山海嘉之社長が、20年以上にわたり続けてきた基礎研究をもとに開発した。足が不自由な人が一定期間装着して治療を行うと、脳・神経・筋系の機能再生が促進され、歩行機能が改善される。昨年には欧州で医療機器の認証を取得し、世界で初めての治療ができるロボットとなった。
注目される理由はそれだけではない。サイバーダインは日本で初めて、「議決権種類株式」を用いた上場を果たした。上場した普通株式のほかに10倍の議決権を付与された種類株を発行。山海社長が上場後も議決権の約9割を握り、実質的に支配する仕組みになっている。
2014年3月期は売上高が約4億5000万円、営業損益は約11億5000万円の赤字だった。今2015年3月期も赤字が続く見込みだ。今後の事業展開や黒字化の計画について、どう描いているのか。山海社長に聞いた。

人を支援する産業を作り出す

――ロボットの開発によって何を目指しているのか。

社会が直面する課題そのものを新産業にしていきたい。つまり、少子高齢社会では要介護や病気を抱える人が増える。社会が支えなければならないが、今後、限界に達することは目に見えている。われわれが目指すのは「重介護ゼロ社会」。具体的にいえば「寝たきりゼロ」だ。

そのために取り組んでいることは2つ。1つは、自立度を高めること。身体や生理機能を向上させていく。もう1つは、支援や介護をする人が楽にできるようにすること。介護される側の要介護度が改善すると、支援する側も楽になる。サイバーダインは、その2つを実現するテクノロジーを作り出していく。社会はいつもテクノロジーで変わってきた。

また国内だけでなく、世界でも事業を拡大している。ロボットが人を支援していく社会を加速させたい。世界の潮流として、産業用ロボットもあれば、軍事用のものもある。たとえばグーグルはすばらしい会社だが、軍事系のロボット企業もかなり買収している。われわれは医療、福祉、生活の3分野を軸にして、自動車や電機と同じように、人を支援する産業を作り出し、サイバーダインが世界を主導する立場で開拓していきたい。国際的な認証規格などのルール作りも中心になって仕上げていく。

――なぜ上場する道を選んだのか。

2030年には(日本の)生産者と非生産者人口が逆転する。そのときになって、「さあ、どうするか」と対策を考えていても間に合わない。私は1991年にロボットの基礎研究をはじめ、できるだけ速いスピードでやってきた。研究を現実のものにするには、上場の実現はとても重要な段階だった。これより遅れると、産業創出が起こる前に、大変な時代を迎えることになっただろう。

社会全体で産業を推進する動きや研究によって培ってきた基礎技術を社会に実装する入り口に立ったこと、人材が集まってきているということ、さらに社会的に重要な活動を支える投資家が動きやすくなったことなど、すべてのタイミングが重なった時に上場した。むしろ、そのタイミングを待っていたというほうが正解かもしれない。

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