コロナ変異種「水際対策」すでに手遅れなワケ 英国が気付けたのは圧倒的ゲノム解析のおかげ
コロナ禍ですでにボロボロとなっていた旅行業界は激しく揺さぶられている。何百万という人々が年末年始の旅行計画の変更を迫られ、暗い2020年の終わりに新たな不安材料が投入された格好だ。
その一方で、南アフリカで感染を広げている別の変異種にも懸念が強まっている。これまでにドイツ、イスラエル、サウジアラビア、スイス、トルコの少なくとも5カ国が南アフリカからの渡航を禁止した。
スウェーデンは、イギリスの変異種がデンマークでも検出されたとの報告を受けてデンマークからの入国を禁止した。さらに徹底しているのがサウジアラビアで、空路による他国からの入国を少なくとも1週間、すべて停止する措置に踏み切った。
南アフリカで見つかった変異種は、感染者が保持するウイルス量が高まることが現地の医師によって確認されたため、集中的な科学研究の対象になっている。感染者の上気道のウイルス量は従来のものよりも多くなることがわかっている。多くのウイルス性疾患では、ウイルス量が多いほど重症化する。
これら2つの変異種がどこまで広く拡散しているかが不明である以上、イギリスと南アフリカを「隔離」することで、どこまで変異種を封じ込められるかも未知数だ。
洗練されたゲノム監視体制を持つイギリスは変異種を特定するために、新型コロナウイルスのゲノムをこれまでに約15万人分も解析してきている。これは新型コロナに関する全世界のゲノムデータのおよそ半分に相当する、とイギリスのゲノム解析プロジェクト「COVID-19ジノミックスUKコンソーシアム」の責任者を務めるケンブリッジ大学のシャロン・ピーコック教授(微生物学)は話す。
「どこかで何が見つかるとすれば、おそらくここ(イギリス)で最初に見つかる」とピーコック氏。変異種の特定で有効性が証明されている他の検査を実施しているのでない限り「ゲノム解析が行われていない場所では、変異の発生にすら気づかない」という。