アメリカ財務省の本音は「まだドルは高すぎる」 「為替政策報告書」が各通貨に発した警告を読む

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2020年のドル全面安の裏側には人民元そしてユーロの大幅な上昇があった。それだけにこの2通貨に対する報告書の評価は注目されるものだ。人民元に関しては年前半こそ安定していたものの、6月末から10月末の間に対ドルで5.6%上昇したとあり、その理由としては元買いをするうえでの良好な金利差の存在(favorable interest rate differentials)、中国に対する資本流入の増加(increased investment inflows)、巨大な貿易黒字を含めた良好な経済指標(positive economic data, including a substantial trade surplus)が挙げられている。

とはいえ、中国に関しては依然、為替政策運営に不透明な部分が多いとの指摘もあり、人民元の水準以前問題として構造的な課題が放置されていることを懸念している。

今回の本欄では詳述を避けるが、2021年は元高を背景とする中国の輸出減速や、アフターコロナが視野に入る中での旅行収支赤字の拡大なども予見されることから、2020年と比べれば経常黒字・貿易黒字は減少し、需給に支えられた元買いは抑制されるのではないかと思われる。そうしたファンダメンタルズ分析に加え、バイデン次期政権の対中政策がどの程度、柔和なものになるのかも元相場に大いに影響を与えよう。

珍しくドイツに対して前向きな評価も

片や、同じく2020年に強烈な上昇を見せたユーロに関しては「4月下旬から徐々に上昇し、10月末までに対ドルで3.7%上昇している。さらに同じく10月末までに名目実効相場ベースで6.6%、実質実効相場ベースで5.0%上昇した」と大幅高を認めたうえで、IMF(国際通貨基金)の分析を持ち出し「ユーロ圏の対外収支は中期的なファンダメンタルズと望ましい政策に照らせば、やや強い(黒字が多い)」としており、多額の黒字に起因したユーロ高であるとの見方を示唆している。

これは一定の事実である。周知のとおり、この黒字のほとんどがドイツに由来するものであるため、同国に対する報告書の評価に目をやると「2020年、ドイツの経常黒字はGDP比で7.2%から6.8%へ、輸出減速もあって縮小した。だが、それでも金額で見れば世界最大である」と依然大きい不均衡の存在に言及している。

とはいえ、今回の報告書では「ドイツの成長が外需から内需にシフトしている兆候(sign)がある。輸出の急落(precipitous drop)と比較すれば、財政刺激策によって内需の押し上げが見られる」とついに重い腰を上げたドイツ政府による財政出動を評価している。もちろん、現在の財政出動はコロナ禍での一時対応であり、実際、消費減税も暫定的な政策として打ち出されている。ゆえに報告書はこの動きを危機後も継続し、国内の過剰貯蓄を削減したうえで消費・投資を促すべきとの提言で占めている。

このあたりは一方的な要求ばかりが目立つ為替政策報告書の中でも正論といえる部分であり、ポストメルケルのドイツが教条主義的な緊縮路線を脱却して、どのような政策運営をするかが注目されるところである。

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