「お賽銭のキャッシュレス化」知られざる新潮流 ​各国で普及する「献金の脱現金化」の是非

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ただし、電子マネーによるお賽銭は、いつも現金の代替にはなるとは限らない。上述のパリの教会における電子決済の体験では、「待ち合わせ時間まで堂内で休憩させてもらった」「その時に鑑賞した教会を彩る文化財保護の足しになれば」という気持ちで筆者は献金をした。いくばくかの金額そのものを教会に渡したかったため、お金を渡す手段は問題ではなかった。

しかし、寺社でお賽銭を納める時に行う「お金を賽銭箱に投げ入れ、それが音を立てて賽銭箱に入り、その後にお願いごとをする」という一連の行為も含めて「お賽銭という体験」をしたいと考えているならば、電子決済では「物足りない」と感じる人は少なくないかもしれない。

さらに、すべての寺社が手放しで、このキャッシュレス化の流れに賛成しているわけではない。京都府内の約1000の寺院が加盟する京都仏教会は、キャッシュレス化について宗教活動には不適切で受け入れないとする声明文を発表している。

個人情報の取得を警戒

理由は、参拝者や信者の行動、個人情報がクレジットカード会社など第三者に把握されるなど「信教の自由」が侵害される可能性があるということ。そして、寺院や信者の行動が外部に知られることで、宗教統制や弾圧に利用されるかもしれないことも危惧している。

また、現在は非課税となっている布施や拝観料がキャッシュレス化されれば、将来的に課税の流れへつながる可能性もあるという(お寺で売られる土産物などは物品販売として課税対象である)。

先述のフランス・アンフォが取材したカトリック・パリ教区の担当者は、献金の電子決済を進めている理由について「私たちは硬貨を使うなとは言いません。しかし、人々のポケットから硬貨はやがてなくなるでしょう。カトリック教会が、古いやり方で部屋に閉じこもり続ける理由はありません」と答える。

フランスも非営利団体本来の事業については課税はないため、宗教団体の宗教活動に課税はされない(宗教活動を越えた事業から生じる所得などには課税される)。

社会全体のキャッシュレス化は日々進んでいる。伝統やこれまでの慣習との兼ね合いを考えつつ、変化をどの程度受け入れて対応していくのか。そのさじ加減について、各国での試行錯誤は続く。

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