「今から始めても遅い」と思う人の大きな勘違い ある分野から別に移っても経験は無駄にならず
早期の専門特化を象徴する存在であるスポーツ選手や音楽家について調べてみると、スポーツでトップ選手になった人たちでも、実は最初の頃に幅広い経験を積んでいて、あとから専門を決めるのが一般的だった。また、偉大な音楽家は驚くほど多様な道筋をたどっていて、能力を育てる上で早期の超専門特化は必須ではなく、即興演奏をする音楽ではむしろそれは稀だった。それでも、多くの大人がカネ儲けのために、音楽でもスポーツでも、なるべく早く専門特化することが不可欠だと思わせようとしている。
20世紀で最も優れたピアニストの1人と言われているスヴャトスラフ・リヒテルが、初めて正式なレッスンを受けたのは22歳の時だった。スティーブ・ナッシュはカナダ人としてはまあまあ平均的な体格で、バスケットボールを始めたのは13歳の時だったが、NBAのMVP(最優秀選手賞)を2回獲得している。
私が今この原稿を書きながら演奏を聞いているプロのバイオリニストは、18 歳の時に習い始めた。始める前には、「遅すぎるからやめておけ」と言われたという。
「後れを取ったと思わないこと」
では、そろそろ一言でアドバイスをしよう。それは「後れを取ったと思わないこと」だ。 自分を誰かと比べるなら、自分より若い他人ではなく、自分自身と比べよう。成長のスピードは人それぞれであり、他の人を見て後れを取ったとは思わないことだ。あなたは恐らく、自分がどこに行こうとしているのか、まだわかっていないのだろう。
美術史学者のウィリアム・ウォーレスによると、ミケランジェロは「試して学ぶ」の最たる実践者だったという。ミケランジェロはよく気が変わり、大理石を彫り進めていきながら、何度も計画を変更した。実際、ミケランジェロの彫刻の5分の3は未完成のままで、その度に、次の有望なアイデアに移っていった。ミケランジェロはまず試してみて、そこから先に進んでいった。
ミケランジェロのように、自分だけの旅やプロジェクトに取り組もう。その過程では、意欲を持って学び、道を進む中で順応して、時にはそれまでの目標を捨てる。完全に方向を変えることにも躊躇しない。
技術イノベーションからコミック本まで、さまざまな領域のクリエーターを対象とした研究によると、多様な経験を持つ個人は専門家のグループよりも創造に貢献するという。もし、ある分野から全く別の分野に移っても、その経験がムダになることはない。
あちこちに寄り道をしながら考え、実験するほうが、特に不確実性の高い現代では力の源になる。
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