白血病のJリーガー「病名公表」するまでの苦悩 酒井高徳選手が見舞い、南野選手も心配のメール

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全身がだるくなり、味覚障害に陥り、かつ唾液があまり出なくなり、口のなかがパサパサな状態になってしまう。便意も下痢っぽくなったかと思えば、急に便秘になったりと、あらゆる症状が自分の体に生じ、無気力感に支配される。

そこから徐々に数値が上がってくるため、徐々にゆっくり立ち上がるように回復していく。しかし、抗がん剤治療から数日後に、少しずつ血球の数値が下がっていき、どうしても体がだるかったり、食欲が湧いてこなくなったりする。

この繰り返しはどんどん自分の負担になっていった。それでも食事はできる限り食べて、少しでも体力を維持しようと努めた。

「もう一度、サッカー選手としてピッチに戻るんだ……」

この思いが崩れ落ちそうになる自分の気持ちを必死で持ちこたえさせてくれた。それでも、回数を重ねていくごとに「まだやるのか」という気持ちが込み上げてくる。

募る罪悪感

そんな治療で苦しむなかで、僕には何よりも気がかりなことがあった。それは、僕の病気のことを、身内と一部のクラブ関係者にしか伝えていなかったことだ。

病室でネットを見ることが日課になっていた僕は、「練習場に史哉がいない」「5月以降、史哉の姿を見ていない」という書き込みをよく目にした。

そのなかには、ずっと僕のことを応援してくれてきたファンのかたもいて、自分にとっても大事な人たちの「どうしていないの?」「史哉に何かあったんじゃないか?」という言葉に、ものすごく申し訳ない気持ちを抱いていた。

診断は出ているが、クラブがそれを正式発表するまでは誰にも言えない。ファン、サポーターはもちろん、アルビレックスのチームメイトや仲のいい選手、友人にすらも言えない状態だった。

クラブにも「早川選手は体調不良により、安静にしています」とだけアナウンスをしてもらっていて、何か自分が周りにウソをついているようで、罪悪感に苛(さいな)まれた。

FIFA U-17ワールドカップ メキシコ大会のチームメイトだった、南野拓実や岩波拓也からも心配のメールを受けたが、真実を伝えることができなかった。友達からも「最近、メンバーに入っていないけど、どうしたの?」と連絡がきたが、「ちょっと調子を落としていてさ」と答えは同じで、罪悪感だけが募っていった。

そのため、アルビレックス新潟として僕の白血病を公式リリースするのかしないのか、するとしたらどのタイミングでするのかを話し合った。

比較的調子がよかった日に、広報室長の栗原康祐さんと話し合った。そのとき、栗原さんは「自分の決定も大事だけど、それだけでなく、家族ともしっかり話し合ったほうがいい」とあくまで僕側の意向を尊重してくれた。

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