アメコミ映画「何作出ても」ヒットが続く理由 著作権を出版社が持ちストーリーを「いじれる」

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ところが、著作権を出版社である法人が持っていれば、ゴーイングコンサーン(会社が事業を継続していくという前提)である法人のもとで、キャラクターは自由に動ける状態となる。まさに不老不死になるわけだ。

いってみれば、キャラクターにクオリティライフが与えられ、永遠の命が与えられるのである。2018年、『スパイダーマン』のオリジナルの原作者であり、アメコミ界のレジェンドであるスタン・リー氏が亡くなったが、『スパイダーマン』は、アニメも実写も、まったくその死の影響を受けることなく、変わらぬ活躍と「成長」を続けている。

コンテンツのなかで、人気のキャラクターには次々にストーリーが増産され、シリーズ化される。シリーズが進めば、観客のあいだにも満腹感が出てくる。コンテンツとしての賞味期限がやってくるわけだ。そこで、『バットマン』が『ダークナイト』でリブートしたように、シリーズの世界観を思い切って変更し、コンテンツとしての仕切り直しを図るのだ。

キャラクターの経済的価値は減価しないが、一方で、その運用によって価値を増幅することが可能だ。そのためには、キャラクターとストーリーをどのくらい「いじれるか」という自由度が問題になってくる。

マーベル・ヒーローものの興行収入は4兆円

先述のとおりアメコミにも、マンガと同じように、キャラクター(登場人物など)の出自など人物設定にはストーリーがある。シリーズ化、あるいはスピンオフ化されても、キャラクター自身の属性は変わらず共通している。

しかしアメコミのシリーズでは、同じ作家がずっと描いているわけではない。キャラクターは引き継がれ、活躍し続け、成長もしていくが、作家は随時入れ替わり、ストーリーとイメージ(絵)も頻繁に変わる。

マンガは、個人の作家の創造物であり、権利もすべて作家に帰属するが、アメコミはチームでキャラクターを動かし、権利は会社に帰属する。だから、アメコミには作家名などはめったに出てこない。『スパイダーマン』のスタン・リー氏は作家として有名だが、クレジット(名前を表記)されることはむしろ珍しい。

一方の日本では、『鉄腕アトム』といえば手塚治虫氏、『ドラゴンボール』といえば鳥山明氏である。ほかの作家が描いてクレジットされている『ドラゴンボール』など存在しない。権利者が違うから、クロスオーバーのように、他作品からキャラクターを引っ張ってきて競演させることなど、日本ではありえない。

『2030「文化GDP」世界1位の日本』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

すでに本書のなかでも何度か取り上げているが、マーベルのアメコミ・コンテンツの経済効果は尋常ではない。

実写版ハリウッド映画の興行だけでも、2000年の『X−MEN』以降、2019年の『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』に至るまでに、マーベル・ヒーローものの製作本数は56本(平均年2.8本)に及び、その全世界興行収入の累計は、なんと366億ドル(約4兆円)である。映画1本ごとに 6.5億ドル(約715億円)の興行売り上げを稼いでいる計算だ。

経済効果は興行収入にとどまらない。キャラクターによっては、その「商品化」は、映画の興行よりもビッグビジネスである。

福原 秀己 映画プロデューサー、内閣府クールジャパン官民連携プラットフォームアドバイザリーボードメンバー

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ふくはら ひでみ / Fukuhara Hidemi

1950年、東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業後、野村證券に入社。その後、メリルリンチ日本証券に入社。メリルリンチ投信投資顧問代表取締役社長、メリルリンチ・マーキュリー投信投資顧問代表取締役副社長、メリルリンチ日本証券取締役副社長を歴任。2004年、日本のマンガ・アニメを海外で総合展開する米国VIZ Media,LLC(ビズメディア)の社長兼CEOに就任。コンテンツの複雑な権利関係をまとめ上げ、日本文化を各国で受け入れられる形に適応させ欧米にビジネスを拡大展開。2008年、VIZ Productions,LLC(ビズプロダクション)を設立し、念願のハリウッド進出。トム・クルーズ主演『オール・ユー・ニード・イズ・キル』などをプロデュース。

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