ワークマンとカインズが実践する「真逆」の経営 ベイシアグループの有力2社の性格は大違い

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一般顧客向けもターゲットにした「ワークマンプラス」(左)はカインズの「スタイルファクトリー」(右)がヒントになっているという(写真左:風間仁一郎撮影)(写真右:カインズ提供)

2020年10月で初めてグループ総売上げ1兆円を達成した小売り企業主体のベイシアグループ。その中の有力会社が作業服チェーンのワークマンとホームセンターのカインズだ。両社はそれぞれの業界で首位。グループの成長をリードする”きょうだい”だが、経営手法は真逆といっても過言ではない。

三井物産を経て創業者の土屋嘉雄氏に呼ばれて2012年からワークマンに入った土屋哲雄専務(創業者の甥)は、「カインズが一番アグレッシブで、ワークマンやベイシアが一番保守的」だという。

ワークマンでは、一般客向けもターゲットにした新業態「ワークマンプラス」(2018年に開始)がヒットし急成長につながっている。実はその裏側では、カインズから取り入れた「アイデア」が多数生きている。土屋専務は「カインズがいろいろと実験する様子を見ていると、『これは取り入れる必要がある』と思うことが2年に1度くらいある。ワークマンはそれをさらに徹底して深掘りする」と語る。

カインズは模範を示すだけ

例えば「ワークマンプラス」の発想は、広島の商業施設「レクト」内にあるカインズの店舗や、カインズが2017年に始めた都市型店「スタイルファクトリー」の、ホームセンターらしからぬ洗練された売り場を見て生まれたという。2020年に横浜に初出店して話題を呼んだ「#ワークマン女子」も、着想の原点はカインズにあるという。

現在、ベイシアグループ全体をとりまとめる旗振り役はカインズの土屋裕雅会長(創業者の長男)であり、新たなグループ経営を見据えた取り組みが着々と進んでいる。ワークマンの土屋哲雄専務は、その手法について「裕雅さんは(他のグループ会社に)『あれをしろ』とかは決して言わない。でも、一番でかい自分の会社で挑戦しながら、『こういう成功例もある。知りたかったら教えますよ』という形で模範を見せている」という。

全体のホールディングス機能を持つ会社が存在しないベイシアグループでは、会社間での上下関係や明確な役割分担はない。ただ、「一番挑戦して、動きも早いのはカインズ」(複数のグループ会社社員)。アグレッシブなカインズが生み出した成功事例を、ワークマンが自社の経営に巧みに取り込む。この関係が“真逆経営”の最大の強みといえそうだ。

『東洋経済プラス』の短期連載「群馬の巨人 ベイシアグループの正体」では以下の記事を配信しています。
知られざる「1兆円小売り集団」の全貌 
創業者・土屋嘉雄氏がすべてを語る
カインズ・土屋裕雅会長を直撃
ワークマン・土屋哲雄専務を直撃
データ/3つの指標でわかるベイシアグループ
真城 愛弓 東洋経済 記者

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まき あゆみ / Ayumi Maki

東京都出身。通信社を経て2016年東洋経済新報社入社。建設、不動産、アパレル・専門店などの業界取材を経験。2021年4月よりニュース記事などの編集を担当。

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