映画のWeb宣伝担う「フラッグ」の素顔と挑戦 デジタルマーケを映画界に注入したパイオニア

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「コロナになって、先々のことを考えると、人材を社内に抱えるよりは、外部に委託するという流れは今後、もっと活発化すると考えている。それを見据えると同時にスタッフのキャリアパスも考えている。まず自分たちの作品から、宣伝プロデューサーの経験を積ませていく。新しいことにどんどんチャレンジしていきたい」(久保社長)

自社単独の配給作品となる『ダニエル』は2021年2月5日公開 ©2019 DANIEL FILM INC. ALL RIGHTS RESERVED.

2021年2月5日には『ロード・オブ・ザ・リング』のイライジャ・ウッドの製作で、ティム・ロビンス&スーザン・サランドンの息子マイルズ・ロビンスと、アーノルド・シュワルツェネッガーの息子パトリック・シュワルツェネッガーという、ハリウッドの2世俳優が共演する映画『ダニエル』も公開される。こちらはフラッグが100%自社配給する作品となるという。

フラッグでは、詳細はまだ非公表ながら、海外と共同で映画製作プロジェクトも進めている。コロナの状況にもよるが、来春には日本での撮影をスタートさせたいとしている。海外の企業と一緒にコンテンツを作ることで、外貨を稼ぐということが目的だ。業界トップの東宝も、「ゴジラ」「ポケモン」の映画を、海外の映画会社と共同製作し、堅調な成績を収めている。

そうしたグローバルな視点を育むためにも、海外と一緒に映画製作を進められるプロデューサーを育成する必要があると考えた久保社長。今、そうした人材育成に力を入れているという。

制作者の思いとビジネスの成功の"両取り"目指す

「日本だけでなく、海外を見ていくと、こういう稼ぎ方をしていたのかとか、いろいろ新しい発見があって面白い。『映画は水商売でもうからない。でも好きだからやるんでしょ。楽しそうですね』と言われるのがすごく悔しいんです。人に夢を与える仕事だからこそ、しっかりと収益をあげるべきだし、そちらにこだわらないといけない。優秀な人材がたくさん入ってくるような業界にしないと衰退してしまう。そのためにはきちんとした産業基盤を作るべきだと思うんです」(久保社長)

フラッグの企業理念は「クリエイティブとビジネスの幸せな融合」。良いものを作りたいというコンテンツ制作者の思いと、ビジネスとしての成功の両立を目指している。「そのためには個人商店では駄目で、ゆくゆくはパブリック・カンパニーを目指したいと思います」。久保社長は力強く付け加えた。

映画界を裏方として支えるフラッグが、もっと世間に知れ渡るようになるのは、そう遠くないと思われる。

壬生 智裕 映画ライター

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みぶ ともひろ / Tomohiro Mibu

福岡県生まれ、東京育ちの映画ライター。映像制作会社で映画、Vシネマ、CMなどの撮影現場に従事したのち、フリーランスの映画ライターに転向。近年は年間400本以上のイベント、インタビュー取材などに駆け回る毎日で、とくに国内映画祭、映画館などがライフワーク。ライターのほかに編集者としても活動しており、映画祭パンフレット、3D撮影現場のヒアリング本、フィルムアーカイブなどの書籍も手がける。

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