築地本願寺、「30万円合同墓」に予約殺到の理由 「子どもに迷惑をかけたくない」中高年に大人気

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阿弥陀如来は、そうした煩悩にとらわれた私たちすべてを残さずに救うと誓いを立てられて、とてつもなく長い時間修行されてその誓願を達成されて仏様になっているのです。したがって、この世で大きな罪を犯した人、殺人者でさえも必ずすくいとってくれることになります。

つまり、殺人者すら拒まないのですから、仏教のほかの宗派だろうと、異教徒だろうと、すべて受け入れる。築地本願寺は宗派からいってもすべての方を受け入れることができるお寺なのです。この大前提があるので、「生前、自分の意思で自分のお墓を決めたい」という現代人の意思を尊重することができます。

合同墓は、築地本願寺がある限り永遠のいわゆる「永代供養墓」(浄土真宗では供養という言葉は、使いませんが、永代にわたる法要を僧侶が営むという一般の用語でここでは永代供養と表現します)で、冥加金は30万円以上。現在のご契約数は1万人を超えており、テレビ東京の「カンブリア宮殿」をはじめ、さまざまなメディアに取り上げられたことで予約が殺到しています。

「環境変化に対応したものが生き残る」

私は当初「合同墓を始めたら、すぐ競合が出てくるだろう」と思っていました。東京だけでも“ブランド寺”はたくさんあります。有名な大企業とて倒産するのですから、そうした大きなお寺も、新たなニーズを創り出さなければいずれ危機を迎えるのは、築地本願寺と同じでしょう。しかし具体的な動きがないのは、やはりどこのお寺も「伝統に守られているから、自分たちは大丈夫だ」と信じ切っている、古い体質があるのかもしれません。

「冥加金30万円以上」の合同墓はすでに契約数(予約)が1万を超えている(写真提供:築地本願寺)

いっぽうでアクセスが便利な小さなお寺が同じことをすれば、そのお寺にとっても門徒にもプラスは大きいのではないでしょうか。従来型の墓所をつくるには土地の確保が大変ですし、管理にも手間がかかります。しかし限定されたスペースにまとまった合同墓であれば、人手が少ないお寺でも十分行き届いたかたちでお守りできます。

「環境変化に対応したものが生き残る」というダーウィンの適者生存の法則は、築地本願寺だけに当てはまるものではないと思うのです。

安永 雄彦 築地本願寺代表役員・宗務長

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やすなが ゆうひこ / Yuhiko Yasunaga

1954年生まれ。東京都出身。開成高校、慶應義塾大学経済学部卒業。ケンブリッジ大学大学院博士課程修了(経営学専攻)。三和銀行(現三菱UFJ銀行)に21年間勤務。大手鉄道会社における新規事業担当の一方、ITを活用した消費者金融会社の設立、開業を担当。外資系大手エグゼクティブ・サーチ会社を経て独立、島本パートナーズの代表取締役社長として経営幹部人材のサーチ・コンサルティング業務に従事、経営者や企業幹部向けのエグゼクティブ・コーチング活動を展開。2015年7月、築地本願寺代表役員・宗務長に就任。僧侶組織のトップとして法務に従事、寺院の運営管理や首都圏での個人対象の新しいかたちの伝道布教活動を企画推進中。

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