タワマン本場「武蔵小杉」東西で異なる街の顔 地元民は「ムサコ」ではなく「コスギ」と呼ぶ

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川崎市の洪水ハザードマップを見ると、武蔵小杉一帯では、多摩川が氾濫した場合、0.5メートルから3メートルの浸水が想定されていて、今後また被害が起きないとも限らない。

ただ、このような天災を経験しても、この街でのタワマン需要は今も衰えていないようだ。不動産情報を見ると、現在でも中古のマンション価格はそれほど下落していないのには驚く。

目まぐるしく変貌していく武蔵小杉

武蔵小杉の街を歩いていて、ほかにもちょっとした驚きを感じたことがある。今まで武蔵小杉の地名の略称は「ムサコ」だと思い込んでいたのだが、どうもこの地元では「コスギ」と呼ばれているらしいことだ。

バス停の標識には「小杉駅」とある(筆者撮影)

街をゆく路線バスの行き先表示板には「小杉駅」と書いてあり、最初、武蔵小杉駅のほかに小杉駅があるのかと思ったが、そんなはずはない。よく考えてみると、南武線の沿線には武蔵小杉と並んで武蔵中原、武蔵新城、武蔵溝ノ口の各駅があり、武蔵をつけて駅名を名乗らないのがこの辺りの常識のようなのだ。

ムサコと言うと、東京都品川区と目黒区にまたがる武蔵小山地域(武蔵小山駅は品川区)、東京都小金井市の武蔵小金井もムサコと略称されているらしく、混同されるのではと思っていたが、そんな心配は無用のようだ。

【2020年12月9日14時55分追記】初出時、地名に関して一部不正確な表現がありましたので修正しました。

そしてもう1つ意外だったのは、この街にはタワーマンションに住む富裕層も顧客に取り込めそうな、ベーカリーや、フレンチ、イタリアンのレストランなど個人経営の店があまり多くはないことだった。

東急線線路西側の古くからの商店街にそんな店がもっとできたらにぎわいそうな気もするのだが。武蔵小杉のグルメガイド本を見ても、紹介されている店の多くが新丸子や元住吉駅最寄りの店だったりする。

しかし、この街の変貌のスピードは速い。10年後には、今は東側に押され気味の線路西側の街が、自由が丘や中目黒のような食べ歩きが楽しい街になっているのかもしれない。

鈴木 伸子 文筆家

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すずき のぶこ / Nobuko Suzuki

1964年生まれ。東京女子大学卒業後、都市出版『東京人』編集室に勤務。1997年より副編集長。2010年退社。現在は都市、建築、鉄道、町歩き、食べ歩きをテーマに執筆・編集活動を行う。著書に『中央線をゆく、大人の町歩き: 鉄道、地形、歴史、食』『地下鉄で「昭和」の街をゆく 大人の東京散歩』(ともに河出書房新社)『シブいビル 高度成長期生まれ・東京のビルガイド』(リトル・モア)などがある。

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