アメリカに「団結と癒やしの時代」は来るのか 慶大・渡辺教授が語る「バイデン政権」の課題
――党派対立がエスカレートして、支持者同士の激しい衝突や大規模な暴動が多発するのではないかとの懸念もあります。
世論調査では、トランプ支持者の75%はトランプ氏が勝ったと思っている。逆にバイデン氏が勝ったと思っているトランプ支持者は5%もいない。彼らが違ったアメリカを見ている構図が見て取れる。「ブラックライブズマター(黒人の命も大切だ)」の運動に対する見方も分かれているし、コロナに関しての危機認識も違う。基本的な認識すら共有しにくくなっているという、交わることのないパラレルワールド化したアメリカが残っていることを印象づける。
トランプ支持者の一部には陰謀論的なものを信じている人がおり、そういう人たちが白人至上主義や過激な勢力と交差して、抗議活動として暴動や国内テロの形で訴えたりする可能性はあるだろう。例えば大統領就任式の1月20日前後あたりに、(バイデン氏を)新大統領として認めないというような運動が起きてもおかしくない。
バイデン氏は国民の融和を訴えるにしても、民主党内の左派に対して配慮しつつ、かつ共和党も過度に刺激せずに政権運営していけるかは、非常に高度なワザとなるだろう。
コロナ対策と経済立て直しが最優先課題
――アメリカではコロナの感染拡大が再び深刻化していますが、ワクチン開発の問題も含めて今後の政治情勢にどのような影響を与えるでしょうか。
コロナ対策は新政権にとっての最重要課題であり、同じく最重要課題である経済立て直しと不可分の問題でもある。ここで成果を挙げれば、政権の求心力はある程度高まるだろうし、社会の雰囲気も和らぐだろう。
その意味で、コロナの感染拡大が続く中、いかに共和党との折り合いをつけて追加景気対策を早期に実行できるかがまず問われる。そして、ワクチンが安定的に供給され、しかも安全性が確証され、感染状況が収まってくるかが注目される。
――NYダウが3万ドルを突破するといった株高ですが、社会的には所得格差拡大の原因にもなっています。
今の株高は実体経済と乖離しており、格差が一段と鮮明になっていくということだと思う。アメリカではミドルクラス以上の国民は株で資産運用しているケースが比較的に多く、そういう人たちからすると悪い話ではない。結果的に、コロナ前と変わらない生活をしている人たちと、コロナ禍で不安定な状況に追い込まれている人たちとの分極化が進んでいる。
たとえコロナが収束しても、ロボットやAIで雇用を置き換える企業も多く、雇用が元に戻るとは限らない。資産運用の余裕のない人にとってはかなり苦しい状況が続くだろう。その不満がどういう形で表れてくるかは注意しなくてはならない。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら