アメリカに「団結と癒やしの時代」は来るのか 慶大・渡辺教授が語る「バイデン政権」の課題

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――バイデン氏の大統領就任はもはや揺るがないとしても、今後は1月5日にジョージア州で予定される連邦議会上院2議席の決選投票が注目されます(現時点では非改選を含めて上院議席数は共和党50、民主党48)。

 渡辺 靖(わたなべ・やすし)/1967年生まれ。1997年米ハーバード大学大学院で博士号取得(社会人類学)。同大国際問題研究所、アメリカ・ウィルソンセンターなどのフェローを歴任。2005年から慶應義塾大学教授。専門は現代アメリカ論、パブリックディプロマシー論。近著に『白人ナショナリズム』(記者撮影)

大きな意味を持つ決選投票になることは間違いない。民主党は2議席のうち1議席は獲るかもしれないが、2議席となると微妙だ。もし民主党が2議席とも獲れば、上院での議席数は民主50、共和50となり、(賛否が同数の場合には)上院議長を兼務するハリス次期副大統領が1票を持つため、実質的にはトリプルブルー(シンボルカラーが青の民主党が大統領選を制し、上下両院でも過半数獲得)が実現する。そうなると、法案や人事を通す点でバイデン政権にとってやりやすくなる面はある。

だが逆に上院で共和党が多数派を維持すれば、バイデン氏が実行しようとしている巨額の追加経済対策法案や環境・インフラ投資で、共和党から相当な抵抗に遭うことになるだろう。その一方で、共和党が上院で多数を占めれば、民主党左派の抑止にもなる。左派系の人事は上院で承認されないだろうし、極端な増税や規制強化、国防費削減といった左派好みの案件が出てきても、上院では通らないだろう。

――株式市場もそうした「ねじれ議会」のプラス面を好感している印象があります。

ただ注意すべきは、ねじれ議会によって追加的経済対策の規模がかなり削減される可能性があるなど、ダウンサイドを見ておく必要があるということだ。最近の株式市場はいいところばかりを材料視している傾向が強いと思われる。

ハネムーン期間が終われば党派対立が再燃

――トランプ大統領が選挙結果を否定し、法廷闘争に出たことで、アメリカ国内の混乱や分断がむしろ一段と強まった感があります。バイデン氏は国民が団結し、傷を癒やすときが来たと述べていますが、来年以降、新政権下で政治風土は変わるでしょうか。

トランプ氏はアメリカ国民の大統領になるというよりは、自分の支持基盤のほうを向いて政治を行ってきた面が強い。支持基盤ではない人は敵とみなし、分断と対立を煽る手法を採ってきた。バイデン氏はトランプ氏が壊してきたアメリカ民主主義の暗黙のルールやワシントンの常識的な慣習を重んじるだけに、雰囲気は変わるだろう。

とはいえ、(大統領就任から最初の100日間の)ハネムーン期間が終われば、共和党も2022年の中間選挙を意識してくる。議会がねじれると、政治的な駆け引きも盛んになる。雰囲気は和らぐとしても、いつも通りの党派対立に戻ると考えたほうがいいだろう。

特に今回は1988年以来初めて、議会がねじれたままで新政権1期目がスタートする可能性がある。バイデン氏は政権運営の難しさをそう遠くない時期に気づくことになるのではないか。

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