日本企業を「汚物扱い」した米国ファンドの正体 挑発したり貶めたりして獲物に食らいつく

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一方、シトロン・リサーチは「マディ・ウォーターズには敬意を払うが、各種データやライバル社との話し合いによると、ラッキンの財務データは正しい。ラッキンの経営陣からの反応を待つ」として、同社の株への投資(買い持ち)を維持するという正反対の対応を取った。

ラッキンコーヒーは直ちに「疑惑をすべて否定する。顧客の注文はすべてオンラインであり、誤魔化しようがない」と反論した。

しかし4月2日、ラッキンコーヒーは2019年第2四半期から第4四半期にかけて、22億元(約339億円)の売り上げを水増ししていたことを発表し、5月12日までに銭治亜CEOと劉剣COOを解任した。

5月19日にはナスダックから上場廃止の通告を受けたことを公表した。上場が廃止されれば、株式は無価値になる。

カラ売りファンドの新たな視点は参考になる

以上のとおり、アメリカ系カラ売りファンドの分析は当たることもあれば、外れることもある。アカデミックと言っていいほどの綿密な分析でエンロンの粉飾を見抜いた著名カラ売り投資家、ジム・チェイノスですら、時々予想を外し、反省の弁を述べたりしている。

チェイノスに比べると、シトロンは若干大雑把で、乱暴な印象を受ける。サイバーダインの売り推奨レポートの日本語版も、機械翻訳のようなおかしな日本語である。

なお「うんこ」はbullshit(たわごと、直訳は牛の糞)を日本語にしたものかと思って英語版を見てみたが、「UNKO」と書かれていた。チェイノスとシトロンの中間の立ち位置にいるのが、マディ・ウォーターズあたりだろう。

結局のところ、カラ売りファンドであろうとなかろうと、アナリストの分析を信じるかどうかは、もっぱら過去の実績次第である。ただカラ売りファンドは、常識にとらわれず、根本的なところから物事を調べていくので、新たな視点を与えてくれるのは間違いない。したがって、少なくとも耳を傾けてみる程度の価値はあるはずだ。(敬称略)

黒木 亮 作家

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くろき りょう / Ryo Kuroki

1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務して作家に。大学時代は箱根駅伝に2度出場し、20キロメートルで道路北海道記録を塗り替えた。ランナーとしての半生は自伝的長編『冬の喝采』に、ほぼノンフィクション の形で綴られている。英国在住。

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