「鬼滅の刃」ヒットが私たちの不安を象徴する訳 鬼にならずに生き残るためにどうしたらいいか

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主人公の竈門炭治郎(かまどたんじろう)が直面する鬼という生態……ヒトを主食とし、不老不死(太陽の光などにより死ぬ)で、恐るべき身体能力を持つ……を通じた新しい現実がまさにそうだ。要するに、鬼とは、近年加速している「世界の変態」を表すと同時に、それを告知するメッセンジャーなのである。

「世界観」とは、すべてのコスモス(宇宙や自然界の秩序)に対してそれに対応するノモス(社会習慣や規範のような人為的な秩序)があり、世界とは……その過去と未来とは……いったいどういうものかに関する規範的な確実性と経験的な確実性とが結びついて示されていることを意味する。これらの「恒星」、つまり固定された確実性はもはや固定されていない。「コペルニクス的転回2・0」と理解しうる形で変態しているのだ。(『変態する世界』枝廣淳子・中小路佳代子訳、岩波書店)

ここに記されている「固定された確実性」が崩れ去り、「転回」の重大性を訴えるアラームこそが鬼といえるのである。

わたしたちは、従来の世界観に基づく価値判断を中心にして、それ以外の事物を周辺化するものの見方に慣れ親しんできた。これは、人種や宗教や父権などといったものを依然として重視する対立構造に軸足を置き、自分たちの認識こそがスタンダードであると信じて疑わない「天動説」のごときものである。

対立軸の思考ではなく包括する視点が必要

けれども、鬼とヒトを敵と味方といった対立軸でしか捉えられない「固定された」思考では災厄に対処できない。鬼とヒトを包括する視点から物事に向き合う必要があるのだ。その事実を突き付けるのが、鬼とヒトの境界的な存在であるヒロイン竈門禰豆子(かまどねずこ)であり、鬼舞辻を殺そうと企む珠世(たまよ)と愈史郎(ゆしろう)などである。わたしたちの思考の枠組みは、現実的には数多ある世界観の1つにすぎず、それらが「新しいルール」の周りを公転する「地動説」の世界を生きているからだ。

とはいえ、わたしたちは鬼とヒトに関するリアリスティックな思考について、一面では伝統的に受け継いできているはずのものであった。

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