「開拓性」遺伝子型の人とそうでない人がいる訳 ゲノム解析から見た人類の多様性とその未来

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すでに論文で発表されていますが、新しいことに対する開拓性の遺伝子多型を持つ人と、そうでない人がいることがわかっています。全員が新しいことに飛びつく、あるいはその逆だったら、人類はすでに絶滅していますが、開拓したがる人と、そうでない人が多様に存在することによって、人間は種として生き延びてきました。人類全体でバランスをとっているわけですから、「変化が怖い」と感じることは、悪いことではないのです。

例えば、ストレスに強い遺伝子とそうでない遺伝子もあります。これも、強ければいいとも言い切れません。危機が迫ったときには、危機耐性があるほうがいいとも限らないからです。「津波が来るぞ」と聞いて、大丈夫だと考えて残る人もいれば、すぐに逃げる人もいます。そうして種全体の生存の可能性が保たれているのです。

私は、遺伝子解析の事業を始めるときに「遺伝子を調べるなんて、どうしてそんな危ないことをやるのか」というご批判を受け、つらく思っていました。でも、これも視点を変えれば、新しいことに対して批判する人は、私自身も含めた種の生存性を高めている存在だということになります。そう思えば、感謝しなければいけないなと考えが変わりましたし、多様性を認め合う必要があるなとますます思いましたね。

人間にはなぜ「老後」があるのか

長寿時代になれば、人生設計全体も変化して、今とは違う考え方になるだろうなとは思っています。「老後」という考え方もなくなって、働いたり、一度やめて勉強し直したり、また働いたりという人生になり、65歳まで働いて、その先は余生を送るというものではなくなるのではないでしょうか。

そもそも、「老後」がある生物はとても少ないのです。とくに、メスで閉経後の期間がある生物はまれなのですが、人間には、子どもを産んだ後の人生があります。それがなぜなのかは、まだ解明されていませんが、一説には、「老後」は子育てを手伝うため、集団で子育てするためにあると言われています。

人間の子どもは、非常に未発達なまま生まれてきます。馬や鹿は生後すぐに走りますが、人間は大人になり脳が発達するまでに15年から20年かかりますよね。なぜそんなにも非効率なのかというと、集団生活することによって、脳の発達に時間をかけられるからだというのです。

私はいま出産して5カ月経ちますが、育児を核家族でやるには限界がありますし、やはり社会全体で育てるほうがいいと感じます。『ライフスパン』には、孫の孫にも会える未来が描かれていますが、老いなき世界では、孫の孫を育てるコミュニティーが形成されたり、社会のグループの作り方も変わってゆくだろうと思っています。

(構成:泉美木蘭)

高橋 祥子 ジーンクエスト代表取締役社長、ユーグレナ執行役員

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たかはし しょうこ / Shoko Takahashi

1988年生まれ、大阪府出身。京都大学農学部卒。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に、個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝えるゲノム解析サービスを行う、ジーンクエストを起業。2015年3月に博士課程修了。2018年4月に、ユーグレナの執行役員に就任。著書に『ゲノム解析は「私」の世界をどう変えるのか』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
https://genequest.jp/

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