「開拓性」遺伝子型の人とそうでない人がいる訳 ゲノム解析から見た人類の多様性とその未来

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私は、医師だった父の病院を見学した際に、「病気の人を治療することはすばらしいし、必要なことだけど、病気になる前に対処できないのかな」と強く思ったことがきっかけで、生命科学の分野で予防医学を研究するという道に進みました。

しかし、この世界は変化が速く、ヒトのゲノム解読はどんどん進んでいるものの、それを誰がどう社会に生かすのかという課題がありました。サイエンスの領域の知見を使って、社会に今ある課題を解決していきたいし、それによって研究もさらに進めていきたい。この両方をやることに価値があるだろうと思ったのです。

シンクレアさんも、研究だけではなく、その成果をビジネスとして社会に実装していくために精力的に活動されている方ですが、私の場合も、起業という手段が最適だと考え、ジーンクエストを立ち上げました。

今後もこういった流れは確実に進むでしょうし、すでに生命科学のイノベーションは世界で起こされつつある、そんな時代に突入していると思います。

異分野融合によって進化する世界

歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリさんが、AIの発展の次に生命科学が発展すると発言していますが、私は、AIの発展と生命科学の発展は同時でもあるというふうに考えています。というのも、今は異分野間の境目がなくなってきているのです。

高橋祥子(たかはし しょうこ)/ジーンクエスト代表取締役社長、ユーグレナ執行役員 1988年生まれ、大阪府出身。京都大学農学部卒。2013年6月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程在籍中に、個人向けに疾患リスクや体質などに関する遺伝子情報を伝えるゲノム解析サービスを行う、ジーンクエストを起業。2015年3月に博士課程修了。2018年4月に、ユーグレナの執行役員に就任(写真:筆者提供)

例えば、論文1本当たりの著者の人数は年々増えています。1990年代前半までは、論文は1人で書くものでしたが、2020年になると平均6人で1本の論文を書くようになりました。以前は生物学、物理学と区別がありましたが、今は異分野融合が起きているからです。

私が取り組んでいる分野も、生命科学と情報科学が融合した「バイオインフォマティクス」と呼ばれるものですし、弊社のアドバイザーにはAI専門の人間もいます。今後もこのような異分野融合の流れは進むでしょう。

生命科学は、この10年で急速に発展したと言われますが、そもそもその理由は、物理測定機器とコンピューター技術の発展にあります。

ゲノム解析を含め、タンパク質やエピゲノムなど、身体の働きをデータとして計測できる機器が開発され、その後、膨大なビッグデータが蓄積されて、それを処理できるコンピューター技術が発展しました。だから研究が進んだわけです。異分野との融合によって、生命科学が進化したとも言えますね。

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