公的年金保険の根本原則を知っていますか 「消費の平準化」を理解すればスッキリする

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最近は、公的年金保険の根本原則もわずかながら周知されてきたようで、年金を論じるセミナーなどでも、長く働くことができるように、若いときからしっかりとライフプランを立てて、自分への投資をしっかりと行っておこうという話題に向かっている。

ライフ・シフト』(東洋経済新報社)などはまさにそうした人たちへの指南の書であり、あの本は、著者のリンダ・グラットンさんが彼女の同世代に向けて書いたものではない。若い人たち向けにリ・クリエーション、再創造を勧める本として書かれたものである。

ドイツ、スウェーデン、アメリカをはじめ、社会保険方式を採っていった多くの国で、年金制度を作ったひとたちの意図が、後世を生きる我々に自助の精神を涵養することにあったわけだから、今の我々は、彼らの意図通りに動いているという、ちょっと悔しい気もするが、私も内心は、なかなかちゃんとした制度を遺してくれたもんだと感心している。

働く、そしてなるべくWork Longer

もし、保険料の拠出履歴と関係がない租税方式の公的年金であったなら、老後の年金を増やし、高齢期の生活を安定させるために、勤労期の人たちは、みんなでセミナーに集まり、どのような話をしていただろうか。それを考えることはなかなか難しい。

しかし、日本の公的年金保険の根本原則は、「1人当たり賃金が同じ世帯において、負担と給付は同じになる」なのである。これは、共働きであろうが専業主婦がいる世帯であろうが、世帯類型とはまったく関係ない根本原則である。ならば、世帯における1人当たり賃金を増やす、そしてなるべく長く働くというのが、高齢期のためになるということになる。

大卒の女性の場合、就業を継続した場合と、出産退職した後にパートとして再就職した場合とでは、生涯所得が2億円違うという試算もある。彼女たちや彼女たちが形成する家族の高齢期の年金のためにも、公共政策としては、女性が継続就業できる環境をしっかりと整えていくことが極めて重要となる。

そして、次のように、「WPP」ということも我々は繰り返し言ってきた。

これからは「先発」がワークロンガー(継続就業)、「中継ぎ」がプライベートペンション(企業年金や民間生命保険会社の年金保険)、「抑え」がパブリックペンション(公的年金)の「WPPの時代」になる。真ん中のP、プライベートペンションは資産運用で賄う。できるだけ長く社会参加し続け、かつ繰下げ受給で公的年金をもらい始めるとすると、プライベートペンションは退職から公的年金を受給するまでの「中継ぎ」になる。
いま繰下げ受給の上限(70歳)を引き上げようとする動きもあるわけで、民間の金融機関には「抑えの切り札」となる公的年金の受給までのセットアップとしての資産運用の新商品を開発してもらいたい。これまで民間は65歳で受給し始めた年金に上乗せをする「先発完投型」を考えてきたわけだから、「先発・セットアップ・抑えの守護神」のWPPはコペルニクス的転回かな。「年金は破綻なんかしていない、『わからず屋』は放っておこう」『週刊東洋経済Plus』(2019年6月15日号)

みんなの高齢期の年金のためにも、公共政策としては、WPPという方針に反するメッセージを持つ税、社会保障の制度を、WPPと整合性を持つように徹底的に変えていく必要がある。

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