財政再建と成長率向上にむけて政府は明確な第一歩を
07年10月の格上げ決定の際、ムーディーズがその理由として挙げたのは、当時の福田康夫政権による「財出削減を軸とした財政再建方針の堅持が11年までの一般会計のプライマリーバランス黒字化という政府目標の達成につながる」ということだった。しかし、今年初にアウトルックを「ネガティブ」に変更したS&Pは民主党政権の政策では、財政再建が遅れる可能性があるという懸念を示している。
02年当時、政府は格下げに対して猛烈に反発。財務省は数度にわたり、格付け会社に抗議文といってもいいような質問状を送った。有力政治家たちは「わが国の国債は国内で消化されており、返済に何ら問題はない」と、返済可能性の低下はありえないと怒った。
しかし、格付け会社は、それらの批判を受けても格付けを変えることはなかった。前述したように、それから数年後に格上げとなったのは財政事情に改善の余地が広がったと判断されたからである。
今、財政状況が再び厳しい事態を迎え、このままでは、今後さらに著しい悪化へと向かいかねないことは誰の目からも明らかだ。かつてムーディーズが格上げの理由とした「11年までのプライマリーバランス黒字化」という財政再建の看板は、実現不能としてすでに取り外された。10年度予算は64年ぶりに税収が公債発行額を下回る。前回の1946年は終戦直後の混乱期に当たる。事実上、戦後初の事態と言っていい。
それだけではない。今回は、02年当時と比べても、さらに由々しき要素が加わっている。一つは潜在成長率の問題である。大変に残念なことながら、金融危機の最終局面ともいえる02年当時よりも、現在のほうが潜在成長率は低くなっている。このままでは、国債発行の吸収力は減退しかねない。発行と吸収のバランスが崩れれば、長期国債金利には上昇バイアスが増す。
もう一つは、日本国債の保有状況の変化である。02年当時、有力政治家たちが指摘した「日本国債は国内で消化、保有されている」という構造は基本的には変わっていないが、よくよく見ると、海外保有率は数パーセントながら上昇している。国債の「国際化」は微妙に進展中である。それどころか、「保有という概念ではなく投資手段としてみると、日本国債の存在感は海外投資家の間でさらに高まっている」と外資系証券会社は指摘している。先物、オプションなども多様化し、現物の国債だけでは投資実態は語れない。