財政再建と成長率向上にむけて政府は明確な第一歩を
現に、昨年後半以降、日本国債のスティープ化の投資に向かっているヘッジファンドは少なくない。スティープ化とは、将来的な金利上昇を見込んだ投資ということであり、国債金利が上昇するほど、果実を得る投資スタンスだ。財政悪化で金利上昇が必至という我田引水的なシナリオがそれらの投資家層から提示されやすい。これもまた、金利上昇バイアスである。
険しい道しかない
02年当時、格下げでも国債金利は上昇しなかった。したがって、今回も格下げと金利上昇のメカニズムは働かないと楽観することは禁物だ。今、長期金利が大きく上昇すれば、不況をさらに深刻化させるとともに財政状況の厳しさは格段に増す。
海外に目を向けても、財政問題への視線は厳しい。ギリシャが著しい財政悪化を露呈させたことを発端にして、ヨーロッパではスペイン、イタリア、ポルトガルなどにまでソブリンリスクは増大している。こうしたヨーロッパの実情を海の彼方の出来事と等閑視したままでいられるのか。答えは「ノー」だ。ヨーロッパ危機の延長線上にはわが国がある。
財政再建は喫緊の課題である。その点、民主党政権下で消費税率引き上げ論議がなされるムードとなったことは朗報だが、まだ緒に就いたばかりにすぎない。今後、議論を加速度的に深める必要がある。しかし、その一方で与党内には「法人税率引き上げ」などという暴論が頭をもたげていることは憂慮に耐えない。逆に投資減税などで企業活動を活発化させ、潜在成長率を高めていかなければならない局面なのに、である。
これらの課題解決への道は険しく、時間もかかる。しかし、後回しは許されない。わが国にはもはや、即効的に解決できるような重要課題などありえないと腹をくくって、一歩を踏み出さなければならない。
(シニアライター:浪川攻 撮影:今井康一 =週刊東洋経済)
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