米新政権の対北朝鮮政策「戦略的忍耐」の復活も 北朝鮮による軍事的挑発は中国が抑えに?

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バイデン候補が米大統領に当選したが、自らが副大統領を務めたオバマ政権の「戦略的忍耐」政策に戻る可能性がある(写真・ロイター)
アメリカ大統領選で当選を確実にした民主党候補のジョー・バイデン前副大統領は、北朝鮮など朝鮮半島政策をどう考えているのか。2回の首脳会談を行ったトランプ大統領の対北朝鮮スタンスに変化が生じるのは間違いないが、バイデン氏は金正恩・朝鮮労働党委員長とトランプ大統領ほど向き合うだろうか。ロシア出身の朝鮮半島問題研究者で韓国・国民大学アンドレイ・ランコフ教授に、アメリカ新政権の北朝鮮政策の方向性について聞いた。

北朝鮮政策はオバマ政権時と似るか

――金委員長と「恋に落ちた」というほど親密さをアピールしたトランプ大統領と比べると、バイデン氏は北朝鮮に関心があるとは思いません。ただ、核問題の解決は新政権にとっても重要な外交課題になります。バイデン政権での北朝鮮政策の方向性はどうなりそうですか。

現時点で考えられるのは、バイデン政権は彼が副大統領を務めたオバマ政権と似たような政治路線になるということでしょう。いわゆる「戦略的忍耐」という北朝鮮政策が復活するということです。戦略的忍耐とは、北朝鮮とは対話をせず、北朝鮮自らが非核化という不可逆的な譲歩を行うまではアメリカは北朝鮮に対し、なんら譲歩はしないことを意味します。

――「戦略的忍耐」とはいうものの、当時のオバマ政権は何もせずに傍観していただけで、その間に北朝鮮の核・ミサイルの開発能力を高めてしまったという批判がありますね。

その通りです。戦略的忍耐という政策をとっても、なんら未来はないというのが問題です。2020年10月10日に北朝鮮が朝鮮労働党創建75周年を記念して行った閲兵式の映像を見れば、当時の政策がどのような結果をもたらしたかがわかるでしょう。北朝鮮はアメリカに対して黙っていない、ということです。

――バイデン氏にとっては、北朝鮮政策の優先順位は低いでしょうか。

そうでしょう。北朝鮮問題をバイデン氏がどの程度重要視するかは疑問です。トランプ大統領は当初、北朝鮮問題は簡単に解決できると錯覚しており、そのため彼は自らの業績として自慢できる成果が得やすいと考えたがために、北朝鮮に多くの時間と努力を集中させました。

しかし、バイデン氏にはこのような幻想はまったくありません。彼は外交分野では、イランの核問題や対ロシア政策、同盟関係といった問題を北朝鮮問題より重要に考えるでしょう。

――関心を自分たちに向けるため、バイデン氏が当選すれば北朝鮮は何らかの挑発行為に及ぶという見方が選挙前にありました。

アンドレイ・ランコフ/1963年、旧ソ連・レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ。レニングラード国立大学を卒業後、同大学の博士課程を修了。金日成総合大学に留学した経験もある。母校やオーストラリア国立大学などで教鞭をとった後、現職。著書に、『平壌の我慢強い庶民たち』『スターリンから金日成へ』『民衆の北朝鮮』『北朝鮮の核心』など邦訳も多数(写真:ランコフ氏提供)

率直に言えば、中国という存在と現在の中国の北朝鮮に対する態度という要素がなければ、北朝鮮は2020年年末、あるいは2021年初頭にもバイデン政権に対する歓迎式、すなわち大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射するであろうと思っていました。

「発射する」と確実に言えないのは、北朝鮮に対する経済制裁が長期化するうちに、北朝鮮の対中国依存度がとても高まったためです。そのため、北朝鮮は「強硬路線に反対する」という中国の立場を無視できなくなりました。中国はほぼ確実に「ICBMを発射してはならない」と北朝鮮に圧力をかけています。北朝鮮はこの圧力をはねのけることができない可能性が高いと見ています。

それでも、北朝鮮は自分の存在感を示すためになんらかの行動には出るでしょう。中国がとても嫌う核実験を行う可能性は非常に低いと思いますが、完全にないとは言い切れません。ICBMを発射する可能性も残されています。

この記事の続きはこちら。ランコフ教授はこのほか、北朝鮮の考え方と2つの夢、バイデン政権時代の米韓関係などについても語っています。『東洋経済プラス』の連載「混迷するアメリカ」では、識者インタビューなど大統領選や新政権をめぐる多数の分析記事を読むことができます。
福田 恵介 東洋経済 解説部コラムニスト

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ふくだ けいすけ / Keisuke Fukuda

1968年長崎県生まれ。神戸市外国語大学外国語学部ロシア学科卒。毎日新聞記者を経て、1992年東洋経済新報社入社。1999年から1年間、韓国・延世大学留学。著書に『図解 金正日と北朝鮮問題』(東洋経済新報社)、訳書に『朝鮮半島のいちばん長い日』『サムスン電子』『サムスンCEO』『李健煕(イ・ゴンヒ)―サムスンの孤独な帝王』『アン・チョルス 経営の原則』(すべて、東洋経済新報社)など。

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