ロシア文学が描いてきた「逞しい女性たち」の系譜 ロシア文学者の沼野恭子氏インタビュー

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ロシア文学に描かれてきた「逞しい女たち」。

沼野恭子(ぬまの・きょうこ)/ロシア文学者・東京外国語大学名誉教授。1957年生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒業後、NHK、米ハーバード大学講師などを経て、1992年に東京大学大学院博士課程単位取得退学。東京外国語大学教授を経て、2023年4月から現職。『アヴァンギャルドな女たち: ロシアの女性文化』ほか、著書、翻訳書多数(写真:沼野氏提供)

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2022年秋に動員され、戻らぬ夫。完全な帰還を実現すべく、言論統制下のロシアで妻たちが決起した。『週刊東洋経済』3月23日号の深層リポートは「プーチンが畏れる女たち」だ。
戦乱や革命、またソ連時代の大粛清など激動の歴史を潜り抜けてきたロシアで、文学は世相を映し出す鏡のような役割を果たしてきた。ロシア文学を通じ人々の営みを見つめ続けてきた東京外国語大学名誉教授の沼野恭子氏に、著名な作品に絡めながら「声をあげるロシアの女性たち」について聞いた。

※本記事は2024年4月26日6:00まで無料で全文をご覧いただけます。それ以降は有料会員限定となります。

重なるナワリヌイ氏の妻と『デカブリストの妻』

――反体制派の急先鋒で、2月に獄死したアレクセイ・ナワリヌイ氏。妻、ユリアさんによる死の一報後の演説をどう見ましたか。

非常に立派で、感動した。(演説に)登壇しようか迷ったけれども、夫・アレクセイだったらきっと登壇したに違いないから私もすると。人前、舞台の上では涙も見せずに、本当に意志の強い人だと思った。

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――叙事詩『デカブリストの妻』(筆者注:1871〜1872年にかけて発表され、その後『ロシアの女性たち』に改題。農奴制廃止や専制政治打倒を目指して起きた「デカブリストの乱」(1825年)に失敗した貴族将校たちの妻が、皇帝に背いてまで夫を流刑地に追った物語)とユリアさんは重なる部分があります。

比喩としてはまったくあると思う。

『デカブリストの妻』は、ロシアでは誰でも知っている有名な文学作品だが、ある意味「美談」になってしまった面もある。夫と妻の関係から見ると、作中の妻たちは現代のような自立した女性とはちょっと違う。

彼女たちの強い意志はもちろん尊重するものの、やはり夫に従う女性という意味では、19世紀前半の社会規範に縛られていた。当時の枠組みの中での女性の意志の強さだったのだろう。

ユリアさんは、今回はまったく彼女の意思で行動していたと思うが、これまではやはり(夫を)たて、アレクセイのために、ロシアのために、自分がどういうふうに行動したらいいかということを考えていただろうと思う。

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