ロシア文学が描いてきた「逞しい女性たち」の系譜 ロシア文学者の沼野恭子氏インタビュー

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ネクラーソフ『デカブリストの妻(ロシヤの婦人)』(岩波書店)。

――『デカブリストの妻』に登場する将校の妻たちは非常に行動的です。どのような歴史的背景があるのですか。

18世紀のロシアは女帝の時代。中でもエカテリーナ2世は、その功罪両面がある中で、もっともよい部分が啓蒙的なことであり、女子教育。「デカブリストの乱」が起きたのは1825年。「妻」たちは貴族で、よい教育を受けられる立場にいたと思う。

進んだ教育を受けた彼女たちは、「私はシベリアであろうとどこであろうと、(夫に)付いていくんだ」と自分の頭で考えて決めていたはず。

もう1つ、これも意外に思われるかもしれないが、欧州の他の国と比べてロシアには女性の私有財産権があった。教育と経済的自立は、女性が何か考えたり行動したりしていくための大事な2つの要素。不十分ではあったにしても、19世紀にはある程度整っていた。

ロシアにとっての「母」

――現在のロシアでも、兵士の早期帰還を訴える妻、もしくは母たちが、耐え忍ぶのみならず、行動を起こしています。その原動力とは。

ロシアにおける母親と息子の結びつきは、強いと言えるのではないか。論証するのがなかなか難しいところだが、息子を非常に溺愛する母親の事例は多い。

拙著(『アヴァンギャルドな女たち』2003年)にも書いたが、第2次世界大戦の経験は非常に大きい。たくさんの男性が亡くなり人口比が非常に不均衡になったため、ロシアの男たちはちやほやと甘やかされるようになった。母親も妻も男性たちを大事にする。

沼野恭子『アヴァンギャルドな女たち』

さらに(ロシア社会で)母の愛は昔から尊いものとされてきたと言える。「母なるロシア」、「母なるヴォルガ(ロシアを流れる欧州最長の川)」、「母なる大地」などといった表現にも出ている。

また、父が不在である家族が多い。父が戦争で殺された、粛清されていなくなったとか。あるいは逮捕、拘留されているとか。離婚率が高いことも原因の1つだろう。そのため、母子家庭が多く、母が自分で働き一生懸命育てた子どもに愛情を注ぐというのは自然の流れ。

――今のプーチン政権による厳しい弾圧のもとでは、女性たちが社会を変えていくことは困難なのでしょうか。

第2次世界大戦時を乗り越えてきた女性たちはさまざまな苦労をしてきた。従軍した女性が100万人いたし、収容所に囚われていた女性もいた。そういう人たちが生還し、戦後を乗り越えて生きてきた。

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『戦争は女の顔をしていない』(岩波書店)。第2次世界大戦のさなか、過酷な「独ソ戦」に100万人をこえるソ連の女性たちが従軍した。知られざる壮絶な体験を、女性兵士らの証言をもとにノーベル文学賞受賞の作者が戦争を描いた長編

ソ連やロシアの厳しい歴史を耐え忍んできた女性たち。その力が、いざとなったら(政権に反旗を翻すような)大きな力へと転換するということは、可能性としてはあるだろうと思うし、期待したい。

だが、プーチン政権の弾圧の仕方は徹底しており、少しでも反対勢力の芽が出ると、たちまち潰されてしまう。声を上げることは極めて難しい状況だと思う。

――激動の時代を生き抜く女性たちに共通するものを言い表すとしたら、何でしょうか。

単に「強い」というより、そこに賢さとか知恵が感じられる場合がある。

同時に、大いなる苦しみに耐える力も強い。「逞しさ」と「忍耐力」だろうか。

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