「コロナで失業」40歳男性はなぜ派遣を選ぶのか 1日の食事は袋麺1食、体重は35キロまで落ちた

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話をイサムさんに戻そう。取材で話を聞いたとき、イサムさんの体重はすでにベストの50キロ台に戻りつつあった。支援者から、生活保護申請をしても長年連絡を取っていない親族には扶養照会はされないケースもあると説明されたほか、アパート探しも支援すると説得され、今回は生活保護を利用することにしたのだという。

自ら派遣を選んでいる?

イサムさん自身は、寮付き派遣で働くことをどう思っているのだろうか。私が尋ねると、イサムさんはこう答えた。

「選択肢としてはアリかなと思います。自分のように“コミュ障”気味の人間にとっては、仕事も住まいも用意してくれるのは正直ありがたいです。派遣会社さんによっては(その日のうちに給料がもらえる)即日払いのところもありますし」

以前インタビューしたある経済学者が「本当は多くの派遣労働者が自ら派遣で働くことを望んでいる」と言っていたことを思い出した。イサムさんも自ら派遣を選んでいるということになるのだろうか。しかし、実際には直接雇用だった仕事が規制緩和によって事実上派遣労働に切り替わったのだ。選びようがないのに「自ら望む」も何もあるだろうか――。私がそんなことを思っていると、イサムさんがこう続けた。

「手っ取り早く稼げますし、楽なんだと思います。登録すれば、希望する仕事を紹介してくれて。そこが合わなければ、派遣会社さんが別の仕事を紹介してくれる。その代わり家賃をぼったくられたり、休業補償がなかったり、すぐ切られたりするわけですけど。うーん……。自分でも居心地がよくなっている。抜けられないんだと思います」

居心地がいいから抜け出せないという働き手と、悪循環に陥るリスクの高い選択肢しか用意しない社会と――。

イサムさんは「これからですか? 派遣で働くと思います。だってそれしかありませんから」と言った。

藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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