原発処理水、海洋放出で高まる漁業者の懸念 風評被害が深刻に、地元漁業に壊滅的な影響か

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風評被害への賠償に関しても課題がある。相馬原釜魚市場買受人協同組合の佐藤喜成組合長(マル六佐藤水産代表取締役)によれば、「仲買人」と呼ばれる魚市場の流通業者や水産加工業の多くについて、すでに継続的な賠償はないという。

佐藤組合長の会社でも売り上げが回復しているわけではない。「原発事故前は8億円ほどの年商があったのに対して、2019年は3億円程度。それなのに賠償は2016年で打ち切られた。ALPS処理水の放出による風評被害が生じた場合、東電は賠償するというけれど、われわれ仲買人の被害にどう向き合っていくのか。はっきり言わないのはおかしいと思う」(佐藤組合長)。

高い追加賠償のハードル

避難指示区域外の商工業者の営業損害について、東電は2015年に新たな賠償方針を明らかにしている。それによれば、同年8月以降の損害に対して、相当因果関係が認められた年間逸失利益の2倍相当(2年分相当)を支払うとした。いわゆる「2倍賠償」と呼ばれる仕組みだ。そして、2倍賠償を支払った後も引き続き損害が発生していることが確認できた場合に追加賠償を続ける方針を示した。

しかし、相当因果関係の立証はハードルが高く、追加賠償の支払いを受けるのは容易ではない。東電が岩渕友参議院議員(共産党)に示した資料によれば、追加賠償の請求受付件数は2020年9月末時点で997件に上るのに対し、合意にこぎつけたのは28件にとどまる。2019年7月末時点での請求約900件に対して合意が14件だったことから、この1年余りの間に追加賠償はほとんど進んでいない。

東電は、商工業者を対象としたこの仕組みには水産物販売業や水産加工業も含まれるとしている。佐藤組合長が言うように、賠償継続がいかに困難であるかを裏付けるものだ。

国の有識者委員会報告書によると、現行の計画では2022年夏ごろにALPS処理水を貯蔵するタンクが満杯になる見通しで、「現行計画以上のタンク増設の余地は限定的」とされる。敷地内外でタンクの建設スペースを確保することは困難だというが、敷地計画の見直しなどの代替案について十分に検討されたとは言いがたい。風評被害対策を徹底するとしながらも、実効性のある中身も示されていない。

廃炉の着実な推進は重要だが、それと引き替えに水産業の担い手に重い負担を背負わせるのは理不尽だ。国や東電は「海洋放出ありき」ではない道筋を探るべきだ。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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