感染予防でヨーグルト食べる人に「欠けた」視点 日本人の「ヘルスリテラシー」はあまりに低い

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ただ、このような火事場に直面して急にヨーグルトを食べたり、あるいはウォーキングを始めたりしたからといって、いきなり健康になることはありません。その人が持っているもともとの健康レベルを損なわないようにすることは大事ですが、今までやっていなかったことを急に始めて健康を水増しし、新型コロナにかからないようにしようというのは、いくらなんでも都合のいい虚しい努力です。

「量」の話をしよう

テレビ番組や雑誌の特集記事などを見ていつも感じるのですが、日本のメディアで扱われる健康情報はあまりに定性的にすぎる、つまり、ものごとの性質面にだけ着目しているように私には感じられます。

先ほどのビタミンCや乳酸菌の話にしても、「ビタミンが身体によい」というその性質自体はウソではないものの、その数量的な側面、つまり「どれだけ服用すればいいのか」「どのくらい身体状態が改善するのか」という定量的な視点が欠如しているのです。

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定性的な議論は、一見科学的なようで、実はそうでもありません。たとえば日本政府が1100兆円の財政赤字を解消するために、政府支出を抑えようとするのは定性的には正しい話です。しかし、そのカット額が月2000円のレベルにとどまるのであれば、100年分の合計で200万円ちょっとにしかなりません。これではまさに「焼け石に水」であり、定量的には意味のない話になってしまいます。

以前、旧厚生省は、「1日30品目食べれば健康を維持できる」として、30品目を推奨していた時期がありました。量のことを考えないならばこれは正しくて、必要な栄養素が欠けることは起こりにくくなります。しかし、これを続けているとカロリー過多になることが批判されるようになり、2000年には主張しなくなりました。量を考えることは大切、という話です。

その他の健康法についても、性質だけを捉えて「よいか悪いか」を議論するのであれば、よいものはいくらでもあります。しかしその健康法を実行することで役に立つとか立たないとか、ある物質を摂取することが健康によいかそうでもないかなどの問題を評価するためには、その健康法が健康全体に対して効果を発揮するうえで必要な大きさや数量がまず議論されなくてはいけません。もしそのサイズ感が実態にまるで即していないのであれば、結局は空論にすぎないのです。

サプリにしても、たとえば月経前症候群で体内からカルシウムが失われた女性が補充療法としてカルシウムサプリを摂取するのは十分に意味があることです。しかしその場合も、その人の症状に基づいて適量を摂取することで初めて意味をなすのです。

奥 真也 医療未来学者・医師

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おく しんや / Shinya Oku

1962年大阪府生まれ。医療未来学者、医師、医学博士。経営学修士(MBA)。大阪府立北野高校、東京大学医学部医学科卒。英レスター大学経営大学院修了。東京大学医学部附属病院放射線科に入局後、フランス国立医学研究所に留学、会津大学先端情報科学研究センター教授などを務める。その後、製薬会社、医療機器メーカーなどに勤務。著書に『未来の医療年表』(講談社現代新書)、『医療貧国ニッポン』 (PHP新書)、『人は死ねない 超長寿時代に向けた20の視点』(晶文社)などがある。

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