猫が飼い主の顔色を読んで振る舞っている証拠 人との長い共生を経て進化した実はすごい能力

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猫と暮らしていると、猫の自由奔放な行動に悩まされることもあります。

そこで、日々の暮らしから疑問が湧いてきました。

猫は人の表情(顔色)を読むのでしょうか? そんな疑問に答えた研究があります。

2015年にアメリカの研究者が「猫は人の感情を区別できるのか」についての論文を発表しました。

実験はすごくシンプルです。

飼い主と知らない人がそれぞれ、楽しそうな表情/怒った表情を表出し、その際の猫の行動を観察します。

この実験のポイントは、声の効果を除外するために、表情のみを表出するところです。
怒り声を出してしまうと、本当に猫が表情を読んだのか、声を手掛かりにしたのかがわからないからです。

知らない人の表情には関心がない

その結果、猫は飼い主が楽しそうな表情をしているときによく接近し、猫自身ポジティブな行動(耳を前に向ける、リラックスした姿勢をとるなど)をよく見せることがわかりました。

一方で、知らない人が楽しそうな表情を見せても怒りの表情を見せても、猫の行動は変化しませんでした。大変おもしろい結果です。

おそらく猫は、人の表情を一般化して理解してはいないのでしょう。

「飼い主さんがこんな感じの顔をしているときは、近寄っていくといいことがある!」と個別の学習をしていると考えられます。

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そのため、知らない人が同じ表情を見せても、猫にはなんのことかわからなかったのかもしれません。もしくは、知らない人に対しては親しくしてほしくなかった可能性もありますが……。

犬の場合、たとえ知らない人の刺激を用いてもポジティブな表情とネガティブな表情を区別できるといわれています。犬はより一般的な「人の表情の理解」が見られるといってもよいのかもしれません。

犬に対して猫は、飼い主の表情を地道に学んでくれているとすると、とってもかわいい結果だなと思います。

高木 佐保 ネコ心理学者、麻布大学特別研究員

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たかぎ さほ / Saho Takagi

1991年生。2013年同志社大学心理学部卒業。2018年京都大学大学院文学研究科行動文化学専攻心理学専修博士課程修了。博士(文学)。幼い頃から疑問を抱いていた「動物の心」を解明するため、ネコ研究の道へ。2020年現在、麻布大学で日本学術振興会特別研究員(SPD)を務める。ネコ研究集団「CAMP NYAN TOKYO」の一員としても活動中。「ヒトとネコが今よりもっと仲良くなれること」が研究の最終目標。著書に『知りたい! ネコごころ』(岩波書店)『猫がゴロゴロよろこぶCDブック』(サンマーク出版)がある。日本学術振興会特別研究員(SPD)。

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