「キミスイ」「夜に駆ける」生む投稿サイトの凄み 誰でも小説家になれる時代が到来している

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実際に「小説家になろう」から、書籍化やアニメ化を掴んだ作家の中には、初めて小説を執筆した作家も多い。実績や経験がなくても、クオリティの高い作品が評価されることはエンタメ業界の活性化に繋がっていくはずだ。

そんなWeb小説ならではの特徴を生かしてきた同社だが、もう1つ大きな特徴がある。それは、近年アニメ化や書籍化が著しい「異世界転生系」や「悪役令嬢系」といった新しい小説ジャンルを開拓していることだ。

異世界転生系ジャンルとは、「現世での死をきっかけに、異世界に転生する」といったストーリーで、『転生したらスライムだった件』などといった作品が知られている。

異世界転生系の作品が増える前は、現世から異世界へ移動するような「転移系」がアニメ化や書籍化に繋がった時期もあったが、読者のニーズに合わせて作品が増えていく中で、「小説家になろう」のユーザーの間から、異世界転生系という新ジャンルが生まれたそうだ。

複雑なフォーマットでは後続の作品は生まれない

またランキング欄を設けているのも、新ジャンルの流行を後押しするカギになっている。「ジャンルごとにどんなフォーマットが人気なのか。読者ニーズの変化を書き手にいち早く可視化していたことが、Webならではのスピード感のある創作に繋がったように感じています。書き手がトレンドを分析して、素早く作品に反映していく。この循環スピードはWebの強みであり、新しいスタイルを生む要因になっていると思います」(平井氏)。

ただし、新しいフォーマットがすべてムーブメントになるわけでもない。読者ニーズに合ったフォーマットが生まれても、複雑なフォーマットであれば後続の作品が出てこないのだ。

その背景について平井氏は「おそらく新しいジャンルが確立するためには、2つの要因が必要だと考えています。1つは読者ニーズの変化が作者に共有されていること。もう1つは書き手にとって作りやすいフォーマットであることです。読者ニーズの変化を捉えた手法であるうえで、多くの作者が書いてみたいと思えるフォーマットが生まれたときに、大きなムーブメントが形成されるように感じています」と続ける。

ヒナプロジェクト側でも、作品への反応や読者の傾向をいち早くキャッチすることで、Web小説特有のスピード感を書き手に還元していくことを大切にしているそうだ。

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