第3回 日本の経営学の研究力は低い なぜ日本のビジネス研究は国際競争力がないのか

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人数が少ないから競争力がないのか?

なぜ日本のビジネス研究はこれほどまでに国際競争力がないのでしょうか?
数多くの大学に経済学部、経営学部があり、テレビのニュース番組の経済コーナーでは必ず大手シンクタンクの研究員と呼ばれる人たちがコメントを述べています。経済や経営の研究をしている人の数は決して少なくないはずです。

 2011年5月27日付の「科学技術・学術審議会 人文学及び社会科学の振興に関する委員会(第6期第2回)」の参考資料1「人文学・社会科学関連データ」には、分野別の大学教員数が載っています(何年の数字なのかは明示されていませんが、審議会での議論用ですから、それほど古いものではないと思います)

 それによると、大学の本務教員数は

人文科学:23,449人
社会科学:22,863人
理  学:14,700人
工  学:26,436人

 となっています。産業との関連性が比較的強いと思われる社会科学と工学だけを比較すると、工学の方が10%強多い数字となっています。

 しかし、大学ランキングの学術的評判の上位に入っているのは国立大学でした。これは国立大学の方が研究できる環境にあるということでしょうから、国立大学の本務教員数を見てみると、社会科学5,125人、工学14,119人となっており、工学の本務教員数は社会科学の本務教員数の2.75倍となっています。

 ですから、確かに工学系の方が研究できる環境にいる大学教員の数は多いと言えそうです。

 とはいえ、社会科学系の研究者も、それなりに数はいるのですから、それだけの理由で、経済・経営分野は上位にノミネートされている研究機関がない、あるいはビジネスの研究における論文の被引用数比率が化学や材料科学のそれに比べて著しく低い、東アジア諸国より被引用数順位で劣る、といった状況を説明するのは難しそうです。

 さらに考えると、大学教員は研究以外に教育という大きな役割を持っています。そうすると、研究機関のランキングは、研究に労力を割くことができる教員あるいは研究員の数で決まっているということが言えるかもしれません。日本には、研究に集中できる研究者はどれくらいいるでしょうか。次回はこの点から見ていくことにしましょう。

藤村 修三 東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授

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ふじむら しゅうぞう / Fujimura Syuzo

東京工業大学大学院イノベーションマネジメント研究科教授
1955年生まれ。1978年千葉大学理学部物理学科卒。1993年千葉大学大学院自然科学研究科博士(工学)。1978~1998年富士通株式会社、株式会社富士通研究所勤務。半導体プロセスの研究・開発に従事。その間、千葉大学、武蔵工業大学非常勤講師。1998年米カリフォルニア州にてJLM Technologies設立に参加。
1999年ANNEAL Corp. (JLM Technologiesを改称) CTO. 2002~2008年一橋大学イノベーション研究センター寄付研究部門客員教授。2005年4月より現職。
1997年科学技術庁注目発明(半導体装置の製造装置及び半導体装置の製造方法)、2001年第1回日経BP BizTech 図書賞(『半導体立国ふたたび』日刊工業新聞社)、2010年東工大教育賞受賞。

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