コロナで医療界の苦境が15年前倒しになった 相澤孝夫・日本病院会会長が語る病院の将来

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――これまでも税・社会保障一体改革に際して、地域(2次医療圏)ごとに地域医療構想を策定することになっていました。今までも医療機関どうしの役割分担が進められてきたのでは。

進んできたとは言えない。これまでは急性期の病床を減らすことに主眼が置かれる一方、本来必要である地域包括ケアの視点が欠けていた。(高齢患者の医療・介護ニーズを地域で支える)地域包括ケアでは機能分化と連携が成功の鍵を握っているのだが。

医療に関する需要は、地域の人口と人口構成によってそのほとんどが決まる。どのような医療を提供すべきかを考えるには、地域にどういった疾患がどのくらいあり、どの医療機関が患者を診ているかに関する情報が退院時のサマリーのような形で存在し、国が作ったデータベースに収納されているような仕組みが構築されていることが望ましい。こうした仕組みがあれば医療連携や医療機関の機能分化もスムーズになり、無駄な投資をしなくて済む。

当事者の参加による議論が必要

――オンライン診療の拡大について、どのようにお考えですか。

外来の再診については、オンライン診療で相当なレベルまで対応できるのではないか。また、AI(人工知能)が発達してくると、患者が症状を伝えることで適切なアドバイスを受けることができるようになる。ひいては外来診療のスリム化にもつながる。

一方で見ず知らずの患者を初診からすべてオンラインで対応するというのには無理がある。外来に関しては、相談と診察、紹介の仕組みをうまく作ることにより、患者にとって最適な医療を提供することができる。

――8月27、28日の2日間にわたって開催された、日本病院会による病院長・幹部職員セミナーにおいて、厚生労働省が進めてきた地域医療構想をはじめとした医療提供体制改革は「急性期病床を減らすことが主眼で、地域包括ケアの視点が欠けていた」と相澤会長が批判したと「日本病院会ニュース」で報じられています。安倍政権は7年8カ月にわたって続きましたが、この間の医療政策をどう評価していますか。また、菅新政権にどのようなことを期待していますか。

先ほども述べたように、地域医療構想一つ取ってみても、これまで全然前に進まなかった。2019年に公立病院の実名を公表して再編を促そうとしたのは荒っぽいやり方だった。地域にとって望ましい医療提供体制のあり方を明確にするには、きちんとデータをそろえたうえで、公立・公的病院のみならず、地域の民間病院も含めて当事者が参加して議論していく必要がある。新政権には現場の意見を聞いたうえで、そうした場作りへの支援を求めたい。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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