ソフトバンクが打ち出した「2000円検査」の衝撃 「PCR検査を受けたくない」と言う人たちの事情

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もちろん、第1波を抑え込んだ多くの国が目下第2波に直面している、あるいは戦々恐々としているのは否めない。それでも、再度の経済活動制限に踏み切るかどうかの判断材料として、信頼できるデータは必須だ。分母となる検査実施件数が不十分かつ曜日変動の激しい危ういものでは、正しい感染率や重症化率、死亡率は導きようがない。PCR検査の拡大は科学に基づく議論、そして政策判断の大前提である。

経済正常化への道を率先して示すべく、ソフトバンクグループ社は6月に「ソフトバンクモデル」と名付けた出口戦略を示している。「グループ全社員への自主検査を徹底し、社員の感染リスクを可能な限り低減することで、安心して働ける社内環境の整備と適切な企業活動を推進する」という。

シンプルこのうえないが、こと無症状感染の割合が高い新型コロナにおいては、理にかなった方針だ。

「人生いろいろ」の検査事情

ただ、withコロナ経済の「出口戦略」としては堅実でも、一臨床医として「医療への出口」が気がかりだ。

PCR検査とその結果の通知は、医学的判断を含まないので「医行為」に当たらず、医師や医療機関でなくても行える。民間企業によるPCR検査が手の届く料金になり、希望者が増えれば「陽性」判定も増える。医療機関との連携がない場合、受診すべきかどうかなど、陽性者が各自で判断し行動しなければならない。果たして適切な判断を下し、必要な場合スムーズに医療にアクセスできるかどうか。

ソフトバンクのPCR検査も、公式サイトで「スクリーニングを目的に、検査結果を通知するもののみであり、診断等の医学的判断を伴うものではありません」「保健所や病院への申請や誘導が目的ではありません」と強調している。陽性となった場合も医療につながる特段の対応はない。

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ほかにこんな話もある。PCR検査ビジネスを始めた別の企業も、同じく陽性者への“アフターサービス”は用意していない。ところが世の中には色々な事情の人がいるもので、むしろ「陽性でも保健所にすぐには連絡されない」のをメリットと感じる人が、その企業の検査を受けているのだとか。笑うに笑えない現実だ。

当院でも、PCR検査をめぐる「人生いろいろ」は日々垣間見える。検査を受けたい人、発熱があっても受けたくない人、お金がなく受けられないという20歳代の若者……。

PCR検査を数多く担当してきた当院の医師は、「やはり最もよく聞かれるのは、検査費用について。自費か、保険あるいは公費負担か、その具体的な違い。そして、職場に言わないと、学校を休まないと、といった検査を受けるための日常生活上のハードル。あとは、検査結果が出るまでの日数。行事が○日にあるから出たいとか、ですね。もし陽性だったら問題になって怖いから受けたくない、という人も、社会的地位のある50~60代男性に多い」と話す。

医療に該当しない「検査」の特殊性が民間の活用を可能にする一方、ひとたび市場の原理に乗せれば、医療側の思いばかりが通じるわけではない。経済は、思わぬニーズ(人生いろいろ)との相関関係で成り立っている。

それでも公に任せるよりは、最終的に合理的な形に収束するのが市場原理だ。市中の一医療機関としては、患者さん(検査希望者)の安全と安心を最優先に、これからも「人生いろいろ」に寄り添いながら状況を見守っていきたい。

久住 英二 内科医・血液専門医

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くすみ えいじ / Eiji Kusumi

1999年新潟大学医学部卒業。内科医、とくに血液内科と旅行医学が専門。虎の門病院で初期研修ののち、白血病など血液のがんを治療する専門医を取得。血液の病気をはじめ、感染症やワクチン、海外での病気にも詳しい。

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