保険診療では、診療報酬制度により、公定価格が設定されている。保険外の自費検査では、提供価格は医療機関が自由に設定できる。スーパーや小売店の値付けと同様だ。当院のように外部委託検査の医療機関では、PCR検査1回3万~4万円程度の設定もよく見かける。ビジネス渡航目的で会社が費用負担してくれる、といった事情でもないかぎり、自費で受ける気にはなれない価格だ。
実際、その価格の高さが普及を阻んでいる。某検査会社に聞いたところ「自費の新型コロナPCR検査の件数が、9月は8月に比べて3分の1程度に減った」そうだ。本来、検査件数が増えれば、1件あたりの人件費や減価償却コストが下がり、価格は下がる。実際は、検査件数が減り、価格を下げようにも下げられない悪循環に陥っている。
ナビタスクリニックでも、8月のお盆前は、田舎に帰省する前に、と検査に来る人が多かった。しかし9月の連休前では、旅行前に検査に来た人はいなかった。「旅の恥はかき捨て」でもあるまいが、「実家で親や祖父母にウイルスをうつしてはいけない」「東京からの帰省が近所のうわさになる」という状況とは心構えが違うようだ。10月から東京がGo Toトラベルキャンペーンの対象になったものの、プライベートな国内旅行の前に検査を受けに来る人は今もまれだ。
医療機関に検査希望者が来ないのは、別の理由も考えられる。新型コロナPCR検査に特化して低価格で提供している機関に、希望者が集まり始めているのかもしれない。ただし、普段から医療機関で採取された検体を検査している機関とは異なり、精度は不明だ。検査の信頼性の担保は、それぞれの機関が行わなければならない。採用する機械や試薬、そして技師の習熟度にも依存するが、陽性率の高さで判断することになるだろう(陽性者がどんどん出るような検査機関は、
大量PCR検査は「経済の出口戦略」の王道
そんな中、ソフトバンクグループ社が満を持して世に送り出した、1回2000円のPCR検査。検査センターは衛生検査所として登録を認可されており、使われる検査キットは公的保険対象と同じタカラバイオ社製だ。自治体や法人単位での申し込みとなるが、結果受け取りまで最短2時間という迅速さ。1日におよそ4000件の検査が可能だという。
そもそも孫氏が早くからPCR検査の拡充を訴えてきたのは、それが疲弊しきった経済を正常化させる最善の道と信じるからに違いない。
実際、孫氏がPCRプロジェクトを発案した直後のアジア諸国・地域のGDPを見ると、台湾と韓国のみが、日本よりもダメージを小さく抑えることに成功している。日本の4~6月期GDPの前年同期比はマイナス9.9%だったが、台湾ではわずかマイナス0.58%、韓国でもマイナス2.7%の落ち込みにとどまった。
特に、2015年の中東呼吸器症候群(MERS)流行に学んだ韓国は、「ドライブスルー検査」「ウォークスルー検査」などを世界に先駆けて導入。3月6日にはすでに1日1万8199件の検査を実施していた(ニッセイ基礎研究所レポート)。陽性者の隔離を徹底した結果、第1波は早期に収束した。
欧州でも、ドイツは世界で最も早く検査体制を拡充し、全国民を対象とした“PCR検査ローラー作戦”を展開。第1波の際には、新型コロナ死亡率を欧州主要国で最低レベル(7月の最高時でも約4.7%)に抑え、「欧州のコロナ模範国」と称された。日本ではまだ緊急事態宣言の真っ只中にあった5月初め、ドイツは他の欧州諸国に先駆けて経済活動の再開に踏み切っている。
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