アップル最新iPadが「日本の教育」を変えるワケ 安心して学習が続けられるインフラになる

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これらの話は1世代前のiPad(第7世代)での話であり、すでにそうした学びの変化をもたらしてきた。

アップルが9月15日に発表したiPadは第8世代になり、プロセッサーがより強化されたことで、これまで行ってきたビデオ編集の作業などはさらにスピードが上がり、品質が高まることが期待できる。

しかし、それだけではない。iPad(第8世代)には、エントリーモデルのiPadとして初めて、ニューラルエンジンと呼ばれる機械学習処理のためのコアが採用されたのだ。A12 Bionicは、1秒間に5兆回の処理ができる。

機械学習処理は、Siriなどの音声アシスタントに話しかける際の音声認識や、カメラ使用時の被写体やシーン分析と写真の最適化などに用いられているほか、サードパーティアプリーでも、利用が進んでいる。

機械学習処理を行うには、膨大な単純計算を行う必要があり、これを高速かつ低消費電力で実現するために、アップルが自社設計するApple Siliconには2017年からニューラルエンジンが搭載されるようになった。iPhone Xに採用された顔認証「Face ID」も、このニューラルエンジンの演算能力を背景に実現している。

機械学習を教育に導入する未来

学校の環境で重宝されているiPadに、機械学習処理に長けたニューラルエンジンが入ることで、教育向けのアプリや体験が大きく変化する。

例えば前述の枚方市では、iPadを校庭に持ち出し、体育でも活用しているそうだ。例えば走り幅跳びをスローモーションで撮影し、フォームと飛んだ距離を見ながら、より遠くに飛ぶための改善を行ったりしているという。

ここに機械学習処理が加わるとどうなるか? 横から撮影するだけで走り幅跳びの飛距離がわかったり、走り込むスピードや、踏切から着地までの秒数を自動的に計測してくれるようになる。より多くのデータがもたらされると、なにがよい結果を生むのか、理解しやすくなる。

あるいは、バスケットボールの授業で、シュート練習を撮影しているだけで、何回投げて何ポイントゴールを決めたのかを自動的に計測できるようになる(「HomeCourt」アプリにより実現)。

現在のiPadが手軽にビデオ会議やビデオ編集を授業に取り入れているように、将来、モーションキャプチャーやARを教室に持ち込むことができ、教員はより多くのオプションから、学習にとって効果的な体験を取り入れることができるようになる。

アップルはiPad(第8世代)に、2世代進歩したプロセッサーを搭載しながら、価格を据え置いた。もちろんそれは教育現場や家庭からのニーズに応えるものだが、そこに大きな可能性を吹き込むことになった。このインパクトが実現するには数年かかるかもしれないが、iPadは現在教育現場で4〜5年の耐用年数で使われており、機械学習×教育の有効性が顕在化するとき、大きな差を生み出すだろう。

松村 太郎 ジャーナリスト

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まつむら たろう / Taro Matsumura

1980年生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科卒。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)、キャスタリア株式会社取締役研究責任者、ビジネス・ブレークスルー大学講師。著書に『LinkedInスタートブック』(日経BP)、『スマートフォン新時代』(NTT出版)、監訳に『「ソーシャルラーニング」入門』(日経BP)など。

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