新入社員ほど「コロナで損する」日本企業の失態 「当社の人材育成文化が死に絶えました」

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ここで気になるのは、こうした劇的な変化に直面する日本企業の経営者や教育担当者に、危機感があまり感じられないことです。

「今年の新人は放置状態になってしまい、本当に気の毒です。ただ、会社自体が厳しい状況なので、まあ運が悪かったと受け止めてもらうしかありませんね。早く教育を復活できるよう、コロナが早期に終息することを祈るのみです」(物流会社の経営者)

企業の将来を担う新人。新卒一括採用のため新人の経験・スキルが低い日本企業では、新人の育成が長期的に重要な課題のはず。コロナの終息を祈っているだけで良いものでしょうか。もしコロナが長期間終息しないとしたら、新人の育成を諦めるというのでしょうか。

また、「OJT一本足打法」でそもそも人材育成が行き詰まっていたという危機感も、コロナ禍を機にそれを改革しようという姿勢もあまり見られません。

「当社では、春先には研修をオンライン化しようと模索しましたが、手間がかかる割に教育効果が小さいとわかり、諦めて、今年の予定は中止か延期にしました。コロナが終息すれば、いずれ元に戻るだけの話ですからね。転職市場が冷え込んでいるせいか、今年は若い層の離職が大幅に減っています。人事目線では、コロナも悪いことばかりではありません」(建設会社の採用・教育担当者)

なお、従業員の方でも、学習・成長に対する意識の違いが明確になっています。給料・身分が保証されていることに安住して学習しない従業員や本業と無関係な副業に精を出す従業員が目立つ一方、勤務先や自分自身の将来に危機感を持ち、自己啓発に努める従業員は少ない印象です。

経営者・教育担当者の多くは、学習・成長への意欲が低い従業員を「まあこういうご時勢だし、うるさいことを言っても仕方ないな」と静観しています。

コロナ下に求められる「4つの取り組み」

ここまで読んで「いや、わが社にはまったく当てはまらない」というなら、大いに結構です。しかし、少しでも思い当たる点があるなら、経営者・教育担当者には以下の4点を検討することをお勧めします。

1.自社のビジョン・戦略を実現するうえで必要かつ足りない人材を明らかにし、人材育成の長期計画を作る
2.「OJT一本足打法」から脱し、研修や自己啓発に比重を移す
3.コロナが完全に終息しないことを想定し、withコロナの人材育成方法を開発・導入する
4.経営陣・教育担当者は以上の方針・計画を従業員に示し、従業員に自己責任で学習に取り組むことを要請する

よく「人材育成が日本企業の強み」と言われますが、これは職場の基本業務を学ぶOJTに限った話。コロナというピンチをチャンスと捉えて人材育成を変革し、真に「人材育成がわが社の強み」と言えるようになりたいものです。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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