快走続くTモバイル、スプリントは独り負け ソフトバンクの米国戦略に計算違いが生じている
米国携帯通信4位のTモバイルUSが快進撃を見せている。そのことが、同社買収を目指すソフトバンクの戦略に大きな影響を与えかねない。
同社は2014年1~3月期に収益の源泉となるポストペイド(後払い)契約を132万件獲得。全体の契約数でも239万件の純増を記録し、米国市場の2強であるベライゾンの54万件、AT&Tの106万件を引き離した。
Tモバイルのジョン・レジャーCEOは、競合他社からユーザーを刈り取る戦略を進めている。昨年4月にアップルのアイフォーンを導入し、業界の慣習だった契約期間の2年縛りを撤廃。7月に始めた端末の早期買い替え支援サービスも好評で、競合他社も即座に追随せざるをえないほどだった。今年1月には、他社からの乗り換えユーザーに最大650ドルを支払う大盤振る舞いを始めるなど、攻めの姿勢は強まるばかりだ。
プロモーションも挑発的だ。CMでは、ベライゾンに対し「古いマップで通信エリアを比較するな」と批判。LTEの通信速度でも「AT&Tを上回る最速ネットワーク」などと強調する。LTEのカバーエリアで必ずしも優位とはいえない同社だが、2強を引き合いに出すことで自社の存在感を演出し、インフラの弱点を補った。契約数を大幅に伸ばしたことが好感され、一時的に下落していたTモバイルの株価は再び上昇基調に転じている。
勢いは続くか
むろん課題もある。情報通信総合研究所の清水憲人主任研究員は「市場全体の伸びが限定される中、Tモバイルはキャンペーンで無理に契約を獲得しているように見える。勢いを継続できるかどうかは疑問」と指摘する。
Tモバイルは11年、AT&Tとの統合が破談となり30億ドルの違約金と周波数帯の一部を獲得。これを元手にネットワーク投資や広告宣伝を重ねてきた。同社の1~3月期決算は営業費用が先行したために1億5100万ドルの最終赤字だ。それでもユーザー獲得に力を入れるのは、ソフトバンクによる買収価格を引き上げる狙いもあるだろう。
一方、苦戦続きなのが、ソフトバンク傘下で米携帯3位のスプリントだ。
同社は1月、家族や友人でグループを作り、回線数を増やすほど利用料が割引される、戦略プラン「フラミリー」を投入した。CMに登場する一家の父親役はハムスターで、個性的なキャラクターが「家族プラス友人」のグループをアピールする。いかにもソフトバンク風のCMだ。
1~3月期には約300万人がフラミリーに加入した。しかし、全体の契約数は47万件減の5488万件と、大手4社の中では唯一の純減だった。肝心の新規ユーザー獲得に至っていないため、フラミリーで割引した分だけ収入を減らしている計算だ。契約数で年内にTモバイル(4907万件)に逆転される可能性も高い。
孫正義社長は7日の決算説明会でTモバイル買収についてコメントを避けつつ、「規模拡大は必要」と言及した。しかし、Tモバイルの親会社であるドイツテレコムも、安売りはしないだろう。交渉は複雑なものになりそうだ。
(週刊東洋経済2014年5月17日号〈5月12日発売〉核心リポート03)
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