菅政権「経産省内閣の終焉」で今後起きること 官邸で権勢誇った今井尚哉首相補佐官が退任

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2018年秋には、1年後に迫った消費税率10%への引き上げ時の税収増加分の一部を、借金返済から幼児教育無償化などへ使途変更してしまったことも、記憶に新しい。これは、新たな借金によって無償化などを行うことと実態的には同じで、財政健全化を無視した人気取り政策に拍車をかけた。

2019年からは、「インフレリスクを除けば、政府はいくらでも自国通貨建ての国債を発行することができ、財政赤字は問題ではない」と主張するMMT(現代貨幣理論)がアメリカから輸入され、日本でもネット界隈を中心に盛り上がりを見せた。これも、今井氏ら官邸官僚の追い風になった。

そしてそのさなか、新型コロナウイルスの流行が巻き起こった。

日本は、新型コロナウイルスの感染者・死亡者数が世界でも圧倒的に少ないにもかかわらず、政府の新型コロナ対策費のGDP(国内総生産)比では、現在、アメリカに次ぐ2番目の大きさだ(IMF<国際通貨基金>調べ)。その背景にあるのは、今井氏らが国民受けする「1人1律10万円給付」という数字にこだわったり、リーマンショック時やアメリカ・トランプ政権の対策費を上回ること自体を目的にしたりといった意思決定を繰り返したことだった。

ある財務省幹部は「安倍首相は国会では、MMTを否定する答弁を行ったが、本音ベースでは今井氏ら側近を筆頭に、MMTの考え方そのものだった」と証言する。

政策決定の会議体も「乗っ取った」

幼児教育無償化の実施と合わせ、2019年秋には、経産省の現役幹部である新原氏が全世代型社会保障検討会議を立ち上げ、社会保障政策の議論をも仕切り始めた。これは霞が関では、大きな衝撃をもって受け止められた。本来的に経済界の利益を代弁する経済産業省が、生活者のためのものである社会保障政策の改革を主導することに大きな違和感が生じたからだ。

政府の会議体は、どの省庁が仕切るかによって議論や政策決定の方向性が変わってくることが多々ある。このことを利用したのは、全世代型社会保障検討会議が初めてではない。

重要政策に関して法的根拠を持つのが経済財政諮問会議だ。しかし、ここでは財務省や内閣府の影響力も大きい。そのため、今井氏らは自らの影響力を最大化すべく、第2次安倍政権発足直後から、首相の私的機関的な扱いである産業競争力会議(その後、未来投資会議に衣替え)を立ち上げて、政策決定の主導権を握った。先の全世代型社会保障検討会議は、厚生労働省の社会保障審議会や、財務省・厚労省による税・社会保障一体改革に横やりを入れるのが目的だった。

安倍政権における経産省内閣の特徴をまとめると、次のようになる。安倍首相の威を借りて、本来は経産省の管轄ではない金融政策、財政政策、社会保障政策というマクロ政策の中枢分野で、日本銀行、財務省、厚労省のお株を奪い、ほかの政策分野でも同様の構図で全省庁もそろって従わせた。

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