「児童虐待」の裏側に潜む母親の深刻な精神疾患 乳児に他人の血液を口に含ませた事件も発生
入院している生後2カ月の長男に、他人の血液を口に含ませて嘔吐させたとして、9月7日に母親(23)が傷害の疑いで大阪府警に逮捕された。
逮捕容疑は今年2月と3月の2回だが、長男は1月に発熱で入院して以来、20回以上嘔吐しており、そのたびに母親が看護師に伝えていた。母親がいるときに限って嘔吐するので、虐待が疑われたのだ。母親は容疑を否認しているが、「代理ミュンヒハウゼン症候群」が疑われている。
「代理ミュンヒハウゼン症候群」とは、どういったものなのか。
加害者は熱心なふりをした母親に多い
1951年、イギリスの医師により発表された「ミュンヒハウゼン症候群」は、他人の愛情や関心を得て周囲を操りたいがために、病気のふりや自傷を繰り返す症状をいう。病名の由来は、ドイツの詩人ビュルガーによる『ほら吹き男爵の冒険』に登場する主人公で、18世紀に実存したミュンヒハウゼン男爵から名づけられた。
「代理」とつく「代理ミュンヒハウゼン症候群」は、自分ではなく代理として子どもや近親者を病気に仕立てる。日本小児科学会の報告によると、<子どもに病気を作り、かいがいしく面倒をみることにより自らの心の安定をはかる、子どもの虐待における特殊型>とされる。
加害者は熱心なふりをした母親に多く、医師をもだまして不必要な治療が行われ、子どもの健康を脅かす恐れすらある。
『子どもの脳を傷つける親たち』などの著者、福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授(小児神経科医)は、かつてこの症例に遭遇したことがあった。
「4歳の女児を連れて受診に来たある母親が、『娘が夜中に頭痛で泣き叫ぶ』と訴えてきたことがありました。血液検査や脳の画像検査などしたところ、異常は見つかりませんでした。母親は、痛み止めを要求してきたので、子どもに使用できる鎮静剤を処方しました。