ディズニー「ムーラン」で犯した痛恨のミス 重要市場の中国戦略への「ラブレター」が・・・

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10日に行われた米金融大手バンク・オブ・アメリカ主催の投資家向け会合で、今回の失態について聞かれたディズニーのクリスティン・マッカーシーCFOは、撮影を許可した政府機関に対する謝辞をエンドロールに載せるのはハリウッドでは一般的な慣行になっていると述べた。同氏によれば、主だったキャストが出演するシーンはすべてニュージーランドで撮影したが、「この歴史ドラマで(中国の)独特な風景や地理を正確に描写するために」中国で風景撮影を行ったという。

「この話はそれくらいに」。マッカーシー氏はこう言って話を切り上げようとしたが、その後、例の謝辞が「多くの問題を引き起こした」ことを認めた。

中国人コンサルタントが助言も

ハリウッドにとって中国ほど重要性の高い海外市場はない。中国の興行収入はアメリカやカナダをも抜いて、今にも世界ナンバーワンとなりそうな勢いだ。中でも中国に入れ込んでいるのがディズニーである。ディズニーは総工費55億ドルの上海ディズニーリゾートを中国政府と共同所有。ディズニー幹部はこのリゾートについて、創業者のウォルト・ディズニーがフロリダ州中心部の土地を購入して以来の大チャンスだと語ってきた。

ディズニーはまた、家族連れなら誰もが訪れるアトラクションになるとの期待を込めて、赤字の香港ディズニーランドの刷新に何億ドルという資金を注ぎ込んでいる。

ディズニーは『ムーラン』を中国人の琴線に触れる作品とするため、十分な制作期間を確保した。主演にはリウ・イーフェイ(劉亦菲)、ムーランを鍛え上げるタン司令官役にはドニー・イェン(甄子丹)といったように、キャストには中国系の有名俳優を起用。中国向け試写会の反応をもとに、ムーランのキスシーンはカットした。中国当局とも台本を共有し(これはハリウッドでは珍しいことではない)、特定の王朝に焦点を当てない方がいいという中国人コンサルタントの助言にも耳を傾けた。

ウォルト・ディズニー・スタジオのアラン・ホルン共同会長は昨年、『ハリウッド・リポーター』誌にこう語っている。「『ムーラン』が中国で成功しなかったとしたら問題だ」

『ムーラン』をめぐる今回の騒動で、企業が道義的責任と中国市場へのアクセスを両立させる難しさがあらためて浮き彫りとなった。昨年にはヒューストン・ロケッツのゼネラルマネージャーが香港の民主派デモを支持する画像をツイッターで共有したのを受けて、アメリカのプロバスケットボールリーグNBAが中国市場から締め出されそうになる一件があった。

中国当局の怒りを買ったことで、NBAには何億ドルという損失が降りかかった(さらにアメリカの政治家からは新疆ウイグル自治区のバスケットボールアカデミーとの関係を断ち切るよう度重なる圧力を受け、NBAは今年7月、すでにそのように対応したと明かした)。

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