ディズニー「ムーラン」で犯した痛恨のミス 重要市場の中国戦略への「ラブレター」が・・・

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何か失態を起こすたびに問題が不当に誇張され、集中砲火を浴びせられる――。ディズニーは、そのブランド故に都合よく「サンドバッグ役」にされてしまうといった主張を長年にわたり繰り広げてきた。実際、2018年時点では多くのアメリカ企業が新疆ウイグル自治区と関わりを持っていたし、今でも同地区から製品や部材を調達しているアメリカ企業は少なくない。

だが、今回のエンドロール問題で謝罪すれば、中国の怒りを買い、今後の映画公開も危うくなりかねない。1990年代後半、ディズニーはダライ・ラマに同情的とされるマーティン・スコセッシ監督作品『クンドゥン』の配給元となったことで、アニメ版『ムーラン』の中国公開を8カ月間妨害されたことがある。結果的にアニメ版『ムーラン』は中国では失敗に終わった。

中国の人権問題に慎重にならざるをえない

UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)中国研究センターのマイケル・ベリー所長はこう指摘する。「ディズニーはブラック・ライブズ・マター(黒人の命を粗末にするな)や性被害を告発する#ミートゥー運動を支持してきた。

そして、全員がアジア系のキャストで女性が監督を務めた『ムーラン』のような映画を制作することで、多様な人々を受け入れるインクルージョンへの呼びかけにも機敏に応じている。だが、中国の人権問題については極めて慎重にならなければならない。もちろん、これはビジネスだ。しかし、こういう偽善に腹を立てる人もいる」

実写版『ムーラン』が中国でどのような評価を得るのかはまだ分からない。中国に7万館ある映画館は営業を再開したとはいえ、新型コロナウイルス対策のため入場は今も定員の5割に制限されている。海賊版の横行や、冷ややかなレビューもチケット販売に悪影響を及ぼす可能性がある。

中国で劇場公開初日となった11日、リウ・イーフェイ演じる眼光鋭いムーランが、赤い衣装に身をまとい、背後に黒髪をなびかせて剣を振りかざしている大きなポスターが中国の映画館に飾られた。北京の映画館では、弓の腕前を試すイベントが観客向けに行われていた。

公開初日の興行収入は、800万ドルという平凡な結果。昨年公開された『ライオン・キング』は初日に中国で1300万ドルを売り上げていた。

細部にこだわるディズニーは、上海ディズニーランドで使った手法を応用し、『ムーラン』をあらゆる面で中国の観客にとって真実味のある作品に仕上げようと試みた。上海ディズニーランドの建設でディズニーは、いかにもディズニー的なアトラクションを控え、中国的な要素を大量に取り入れることで「アメリカの文化帝国主義」に対する批判を巧みに回避した。

「大勢の中国人から助言を受けた」と、『ムーラン』のカーロ監督は新華社通信に語っている。1500年前に書かれた中国古典詩「木蘭詩(ムーランの詩)」を学校で習った多くの中国人は、ムーランに強い思い入れがある。木蘭詩を題材にして無数の演劇、詩、小説が何世紀にもわたって生み出されてきた。

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