菅内閣「行政のデジタル化」を進める上での要点 内閣主導で自治体や国会との連携を進めよ

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中央省庁と自治体によるデジタル化に互換性がなければ、データは共有しにくい。全国統一の様式や方法でデジタル化する(そのうえで一部をカスタマイズする自治体があってよい)ことの、どこが地方分権の趣旨に反するのか。全国統一でデジタル化を進め、より少ない費用で実現できるのならそれに越したことはない。

また、中央省庁が直接、国民に対して行政サービスを行うことは少なく、地方自治体を通じて行うことが多い。地方自治体に業務のデジタル化を依頼する場合、自治体の負担が過重にならないように気を使わなければならなかった。

確かに、自治体職員の業務が過重になってはいけないが、デジタル化によって国民の利便性が高まる機会を損ねてはいけない。これまでは、国民の利便性向上よりも自治体の業務負担への配慮を優先していたきらいがある。

ネックとなる国会との情報共有

中央省庁と地方自治体がデジタル化で連携し、全国統一の様式や方法が国民にとって望ましいならそれを採用して自治体にも協力を求める。そのようにして国民の利便性を高める仕組みに変えていくことが菅内閣には求められる。

そして、デジタル化を進めるうえでのもう1つのネックが、中央省庁と国会との情報共有である。中央省庁の業務の中で国会対応は重要な業務の1つである。しかし、国会審議で電子ファイルを使用することが認められておらず、紙に印刷して国会審議に臨むという有様である。

中央省庁がデジタルで作成した文書をそのまま国会で用いれば、行政のデジタル化はもっと進む。しかし、それを中央省庁側から国会側に申し入れることは国会軽視であり、三権分立に反すると受け止められるようだ。議院内閣制で最大与党の総裁が内閣総理大臣となっているのだから、国会対応にまつわる中央省庁の行政改革を行政府からお願いすることぐらい許されてよいのではないか。

これまでの行政改革では、国会に協力を求める必要のある案件はアンタッチャブルだった。その結果、中央省庁における業務の省力化が停滞してしまっていた。しかし、行政のデジタル化については国会の協力なしに進めることはできない。行政のデジタル化を進めるうえで国会の協力を仰ぐ必要があるならば、菅内閣として躊躇なく進めるべきである。

中央省庁での行政のデジタル化は、地方自治体や国会にも協力を仰ぎながら、国民の利便性を高めることを目指して進められることが望ましい。

土居 丈朗 慶應義塾大学 経済学部教授

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どい・たけろう / Takero Doi

1970年生。大阪大学卒業、東京大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。東京大学社会科学研究所助手、慶應義塾大学助教授等を経て、2009年4月から現職。行政改革推進会議議員、税制調査会委員、財政制度等審議会委員、国税審議会委員、東京都税制調査会委員等を務める。主著に『地方債改革の経済学』(日本経済新聞出版社。日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞受賞)、『入門財政学』(日本評論社)、『入門公共経済学(第2版)』(日本評論社)等。

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