貧困層とお金持ち「アベノミクス恩恵」の大格差 「格差が拡大した」との通説をデータで検証する
菅義偉首相率いる菅政権が誕生した。この菅政権が継承する安倍政権の総括がさまざまな角度からなされているが、ちょっと変わった視点でこの7年8カ月を評価してみたい。
異次元の金融緩和を実施し、ETF(上場投資信託)やREIT(不動産投資信託)を日本銀行に買い取らせる非常時の金融政策を実施したアベノミクス。その最大の功罪は、富める者はますます富み、貧しいものはますます貧しくなった──とする社会の格差をそれまで以上に拡大させたことだと言われる。
アベノミクスによって、本当に格差は拡大したのか。貧しい人々から見たアベノミクスとは何だったのか……、富裕層から見たアベノミクスの恵みとは何だったのか……。それぞれの立場からアベノミクスがもたらした成果について考えてみたい。
実質賃金は下落、2人以上世帯の収入は増加
格差社会と言われたときに、最も注目されるのが「賃金」だ。安倍政権時代の7年8カ月で、賃金は上がったのだろうか。まずはいくつかの統計から、その実態を見てみよう。
2015年を100とした実質賃金では、政権発足時の2012年の平均は105.3(決まって支給する給与)、そして2019年の平均は99.6。この7年間で賃金が5.7ポイント減った勘定になっている。安倍政権が賃金上昇を果たせなかった根拠として最も取り上げられている数字だ。
総務省の家計調査報告によると、「2人以上の世帯のうち勤労者世帯」の実収入を見てみると次のようになる。
・2019年……58万6149円(同)
月額で6万7643円、実収入が増えたことになっている。では使うことができるお金=可処分所得ではどうだろう。
・2019年……47万6645円(同)
月額平均で5万1640円の可処分所得が増えたことになる。この数字を見ると、アベノミクスは大きな成果を上げたと言っていいのかもしれないが、実質賃金指数の推移とは矛盾もある。安倍政権下では、働き方改革で主婦の多くが働きに出た。しかも、団塊の世代が本格的なリタイアの時期に差しかかり、世間では急速に人手不足感が出てきた時期でもある。その点は関係しているのかもしれない。
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