「メンズメイク」にハマる30代男性が増えるワケ 予想外に広がる日本人男性のメイク市場

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デパートのコスメカウンターに行けば、各メイクブランドのビューティーアドバイザーがメイク方法を伝授してくれるが、加藤さんがそうしなかったのには、理由があった。

「デパートのコスメ売り場は、女性ばかり。店員さんはプロだから、嫌な顔をせずに接客してくれるだろうけど、おじさんの自分がいきなり売り場に来たら、周囲を戸惑わせてしまうのではないかと思いました。本当は売り場でじっくり商品を見たい気持ちもありますが、メイクアイテムはすべてECで購入しています。気にしすぎかもしれないけれど、僕にとっては女性下着売り場を歩くような気持ちなんです」

率直に、複雑な胸の内を語ってくれた。

そんな加藤さんは、メイク教室に通い出したのだという。

加藤さんのメイクアイテムは、数百円で買える「プチプラコスメ」が中心

「メイクには、正解がないんです。人によって、似合う化粧は違うことがわかりました。女性は、若い頃から何度もトライアンドエラーを繰り返して、自分がより素敵になるメイクを習得していきますよね。僕が美容の階段を一気に駆け上がるためには、プロの意見を素直に聞くのが手っ取り早い。メイク教室で似合うメイクやおすすめアイテムを教えてもらって、自信がつきました」(加藤さん)

普段、自分がメイクをしていることを周囲に明かしていない加藤さん。実生活で接点がなく、利害関係がないプロに任せることで、メイクを純粋に楽しめたという。

「とにかく、早く成功体験が欲しかったんです(笑)。メイクって、ハイライトやシャドウ(顔の陰影をつけるアイテムのこと)など、細やかな工程を積み重ねて完成するもの。一つひとつ、理由やコツを教えてもらわないと、失敗してしまいますからね」

お気に入りアイテムは、眉マスカラ。髪を茶色に染めているので、髪色と眉色に統一感を出すために役立っているのだという。真夏に、汗をかいても落ちないそうだ。目をスッキリ見せたいときには、アイプチ(二重のり)を利用することもあるのだという。

化粧をしてみて、初めて女性の大変さがわかった

メイクを楽しんでいる加藤さんだが、実は自分自身が「化粧は女性のもの」という空気にとらわれてしまっているのだという。

眉メイクアイテムも多数そろえ、シーンによって使い分ける

「芸能人、例えばりゅうちぇるさんみたいに、若くて美しい子がメイクするのはわかるんですよ。でも、僕はおじさんだから……いっそ、同世代のアラフォー芸人さんが『実は俺も化粧してるよ!』って言ってくれたら、気が楽になるのですが……」

加藤さんにとって、メンズメイクは変身願望を叶えてくれるものだそうだ。「コンプレックスがある人間にとっても夢があるし、整形しなくても、技術を磨けば違う自分になれるんです」と、興奮気味に語ってくれた。

「メンズメイクをするようになってから、彼女と出かける際の『メイク待ち』時間にイライラしなくなりました。やってみたら、工程の多さと、大変さがわかるんですよ。昔は『すっぴんでいいよ!』とか言ってしまいそうだったけれど、今ならNGだとわかる。いくら他人がいいといっても、結局は自分の気分なんですよね。女性の気持ちを理解するためにも、一度メイクをやってみるのはいいですよ。僕は、メンズメイクで世界と視野広がりました」

自分のための化粧が、相互理解のきっかけにもなる──。メンズメイクは、想像以上に、さまざまな可能性を秘めた世界なのかもしれない。

小沢 あや コンテンツプランナー 、 編集者

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おざわ あや / Aya Ozawa

音楽レーベルで営業とPRを経験後、IT企業を経て、2018年に独立。エッセイのほか、女性アイドルやミュージシャン、経営者のインタビューを多数執筆。Engadget日本版にて「ワーママのガジェット育児日記」連載中。豊島区公認の池袋愛好家としても活動している。

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