なぜ「感染者が謝罪する」社会になったのか フーコーの「生政治」からコロナ現象を読み解く

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──パチンコ店などは問題が発生していないのにたたかれた……。

記者の皆さんが取材に走りましたが、ついに出ませんでした。人が対面しませんからね。

──感染者非難が目立ちました。

外国から帰国した学生もバッシングを受けました。これも、卒業旅行などの遊びへの道徳的な非難を含んでいます。アートやスポーツなど娯楽と結び付く場所もクラスターの発生源と騒がれました。

SARS(重症急性呼吸器症候群)のとき、「スーパースプレッダー」という感染源と見なされた人を指す用語がありました。たまたま体格のよい人が呼吸苦で暴れて血痰(けったん)が飛び散り、結果としての院内感染ともいえます。

環境の問題などで広がったものなのに、1人の人を感染源として「悪」の存在のように非難するという動きが生じてしまいます。

「病気は自己責任」という考え方の問題

──本では、近代国家の帝国主義から人種主義的な序列化が生じた問題も指摘されています。また、現代の福祉国家もフーコーの生政治の延長にあるのですね。

『感染症社会 アフターコロナの生政治』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトへジャンプしします)

フーコーの生政治の考え方は重要です。隔離・検疫はずっと存在していて、老人ホームもその系譜の中にあります。日本でも施設内感染が発生しましたが、イタリアなどではそうした施設で多くの死者が出ました。健康で働ける人ではない人をまとめて住まわせることは、確かに効率的です。しかし、それが感染拡大を招いたのです。

病気は自己責任という考え方の問題もあります。今回コロナに感染した芸能人が皆、謝っていますね。感染症以外で、「生活習慣病」も生活習慣を変えて予防しない生き方が悪いとの風潮があります。

──エピローグはパンデミック関連の印象的な映画の紹介です。

医学や生物学だけでなく、人間は創造力やイメージに動かされます。そのメカニズムを知ることができるからです。次は映画に現れる病気のイメージを本にする予定です。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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