なぜ「感染者が謝罪する」社会になったのか フーコーの「生政治」からコロナ現象を読み解く

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──フーコーの『監獄の誕生』から、ペストと都市封鎖の描写が紹介されています。「違反すれば死刑」を除けば、今回の欧州のロックダウンと驚くほど似た風景です。

フーコーは近代社会の誕生について、理性が勝利者となる歴史という物語は摩擦なしに進んだのではなく、「非理性」とされた人、精神障害者や働かない人々、犯罪者、貧民、高齢者を社会から大規模に排除する監禁施設を創設したという社会的過程があったことを説いています。そしてそこから、秩序の維持において暴力による強制ではなく、監視システムを通じた自発的服従が大きな役割を果たしていくようになったと指摘します。

さらに、人間の集団的管理が重要になり、人間を個人として扱うのではなく、物のように積み重ね、数え上げてマスとして扱う手法が出てきたことにも注目しています。もう1つ重要な点は、個人の治癒という目的に代わって、社会の防衛が目標とされるようになったこと。健康な人も、感染予防をする生き方、健康増進のための生活習慣に従うよう求められます。

「認知バイアス」が働いた

──今回も有病者の治療にとどまらず、無症状の感染者の「検査・隔離」が叫ばれました。「異物」の排除ということでしょうか。

秩序は、それに合わないものを何らかの形で排除することで維持される面があります。医学的な対策となっていますが、人間社会で起きていますから、イメージに動かされるところがあります。

今回は、「夜の街」がそうです。何となく危険とか、普通の仕事ではないというマイナスのイメージがあって、そこには病気があるに違いない、となるわけです。

クラスターでも同じ。実際には経路不明の方が多いです。つまり、街中にウイルスがいます。クラスターはそこを集中的に検査したから見つかったのかもしれません。

行動経済学でいう認知バイアスです。少なくても目立つものが主要なような気がする。また、わかりやすい対策をすると何かをしている気がするので安心する。人間は昔から変わらないのです。

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